プロジェクト公開から早くも2週間。
その間にも、片岡愛之助さんのお姿をテレビを通じてたくさん拝見でき、本当に嬉しいですね。
『半沢直樹』での黒崎俊一検査官役は、本当に当たり役!シーズン1が2013年のことですから、それ以前の愛之助さんをじっくり堪能できるのも本作の醍醐味なのです。
愛之助さんのエピソード、まだまだあるそうなので、監督に根掘り葉掘り聞いてみました。「其の一」に続いてどうぞ。
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Q.片岡愛之助さんの演出はどのように?
まず役作りでお願いしたことは、「痩せてください」と「左利きに慣れてください」でした。
あの頃の愛之助さんはわりと丸かったんですよね。
左利きに慣れろというのは、絵を描く手元の吹替(代役)をやることになる絵師・石川真澄さんが左利きなんです。それに合わせる必要があるためです。
愛之助さん、さすがに絵は下手っぴだったんですが、最終的には左手で鼻のデッサンを描くのが妙に上手くなっていましたね(笑)
愛之助さんの台詞回しや動作は歌舞伎の様式的な部分はあったのですが、それをすべて抑え込むことはあえてしませんでした。
毬谷友子さんは現代の舞台的な芝居、國村隼さんはまさに映像の芝居、樹木希林さんは独特な存在感の脇役の芝居、それらを均さないことによる「破調の美」を作り出したかったのです。異種格闘技とでもいいましょうか。均整がとれたものよりも、アンバランスなものって、どこか人を引きつける魔力があると思うんです。
Q.撮影中印象に残ったエピソードは?
宮城野との接吻は、テスト中に生まれた台本にない描写で、愛之助さん、なんだか急に焦って、妙に緊張していました。
舞台の上では「色模様」と呼ばれるラブシーンはやっていますが、それはおじさんやおじいさんが相手ですから、女性とは初めてだったんじゃないかな?
全主要キャストが集まる「だんまり」の撮影時、過酷なスケジュールの愛之助さんを早く帰そうと先にアップを撮ろうと段取りをしてたんですね。そんな様子を察した愛之助さん、私の耳元で「希林さんを先に撮ってあげて」と。
確かにだいぶ深い時間でした。愛之助さんのさり気ない優しさを感じるエピソードですが、結局、希林さんは明け方までスタジオの外で若いスタッフとくっちゃべっていました(苦笑)
Q.愛之助さんの魅力はどんなところでしょう?
愛之助さんが歌舞伎で本領を発揮するのは「色悪」だと思います。
見た目や立ち居振る舞いは二枚目でも、女性を裏切ったり殺人などの悪事を働く冷血な役柄です。現代的にいえばハイパーイケメンクズ。
歌舞伎のメジャーな役どころだと『東海道四谷怪談』の民谷伊右衛門です。あの涼しげな眼がまさにそれで。
『宮城野』の矢太郎はまさにそんな役だと思うんです。
ただ、たまに格好良すぎるんですよ。「愛之助さん、格好良すぎです」なんてNGを出してましたけど、今思うと、それって「どうせい?」って感じですよね。
Q.その後のブレイクにも通じるのでしょうか?
『半沢直樹』の黒崎役のことを聞いたのは、2013年5月の明治座の楽屋でした。
「おもろい感じでやります」とは言っていましたが、おねえとは聞いてなかったですね。
あの時、こんなにブレイクするとは本人も予想だにしていなかったと思います。
あのおねえっぷりを歌舞伎の女形で語ろうとする人はいますが、あれは女形の芸とは違います。それより、特に女形を得意とする歌舞伎俳優は、ふだんからたおやかな雰囲気があって、それを誇張した感じですね。
愛之助さんはかつては女形もやりましたが、今は立役(男性の役)が中心です。ふだんは大阪の気のいいアニイなので、まったくたおやかな雰囲気はないんです。
ふだんとも違うし、歌舞伎の得意とする役とも違う、究極の非日常なので、それはそれで演じやすいのかもしれまませんね。
ちなみに、歌舞伎の芸を絶妙なバランスで映像に持ち込んでいるのは中車(香川照之)さんです。ちょっとしたしぐさ、立ち居振る舞いにも歌舞伎のエッセンスが入っています。悪ーい芝居をする時なんてお父さん(市川猿翁)そっくりで、猿翁さんの大ファンの私としては、ちょっとそれを感じるだけで涙が出てます。
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愛之助さんとのご縁は今も続いています。舞台を観に行っては楽屋で馬鹿話をしたり、LINEもしょっちゅうしていて、ご自分のスタンプを堂々と送ってきます(笑)。
そして、レスが早い。しかもスルーはない。そりゃモテます。
人に対して垣根を作らなくて、周りを明るくする存在。大スターになった今もそれはいささかも変わらないんです。
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映画や映像、舞台の上だけではない愛之助さんの底知れぬ魅力に、多くの人が引きつけられているようですね。『宮城野』の矢太郎からも滲み出るものがありますので、是非ご覧いただきたいです。
そんな魅力を日本から世界へ届けるべく、引き続き応援のほど、よろしくお願いいたします。