『なぎのえき』癒しと郷愁の物語

孤独に戦い、感情を麻痺させている人へ。 「立派な大人」を演じ続けるのはもう終わりにしませんか。 そこは夕暮れの無人駅。佐賀県唐津市を舞台にした写真とオーディオドラマによる没入型アートです。都会のスピードに疲弊した大人が、いつでも日常から「途中下車」できる癒しのツールをお届けします。

現在の支援総額

48,000

1%

目標金額は2,500,000円

支援者数

8

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2026/06/23に募集を開始し、 8人の支援により 48,000円の資金を集め、 2026/07/31に募集を終了しました

『なぎのえき』癒しと郷愁の物語

現在の支援総額

48,000

1%達成

終了

目標金額2,500,000

支援者数8

このプロジェクトは、2026/06/23に募集を開始し、 8人の支援により 48,000円の資金を集め、 2026/07/31に募集を終了しました

孤独に戦い、感情を麻痺させている人へ。 「立派な大人」を演じ続けるのはもう終わりにしませんか。 そこは夕暮れの無人駅。佐賀県唐津市を舞台にした写真とオーディオドラマによる没入型アートです。都会のスピードに疲弊した大人が、いつでも日常から「途中下車」できる癒しのツールをお届けします。

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https://camp-fire.jp/projects/959373/view/activities/864281#main(この話の直後の話です)「あぁぁぁああぁあぁっ!!!」私はベッドの上で、お気に入りのサメの抱き枕に顔を全力で押し付けながら声にならない絶叫を上げた。 そのままドタバタと両足をばたつかせ、ベッドの右端から左端へと猛スピードでゴロゴロ転げ回る。勢い余ってドンッ!と床に落ちたが、痛みよりも恥ずかしさが圧倒的に勝っていて、私はフローリングに仰向けになったまま天井を虚ろに見つめた。「朝チュンとか、ライトノベルでしか読んだことなかったー! ……って、チュンじゃないわっ!」窓の外から聞こえてきたのは、爽やかな小鳥のさえずり私、何やってんだろ。 いや、本当に、何やってんだろ。昨夜の記憶が、高画質・フルカラー・立体音響で脳内に再生される。なぎの『せんせー、帰ってないの?』という能天気な声。 ガチャガチャと鍵を探す音。 石像のように固まる彼。普通なら、あそこで「やばい! 隠れて!」とパニックになって服をかき集める場面だ。百歩譲って、息を殺して震えるのが正解だろう。 それなのに昨日の私は、なぜか「彼に馬乗りになったまま、両手で彼の耳を塞ぎ、『もっと……』と囁く」という、深夜のサイコサスペンスドラマの犯人のような奇行に走ってしまったのだ。「……っはぁぁ、死にたい……」両手で顔を覆い、床の上を芋虫のように這いずる。あの時の私は、間違いなくどうかしていた。なぎの気配を感じた瞬間、頭の中で『絶対に、誰にも奪われたくない』というアラートがけたたましく鳴り響き、理性が完全にショートしたのだ。 結果として発現したのが、あの「外部の音を物理的に遮断する強烈な独占」である。字面だけ見れば、なんかちょっと猟奇的で愛が重いヒロインに見えなくもない。 でも、現実問題として彼の立場になって考えてほしい。しかも物理で防ぐとかどうかしてるっ!めちゃくちゃ怖かったよね!? 「えっ!?」って言ってたよね!? そりゃそうだ。玄関の外に彼女(なぎ)がいる絶体絶命のピンチに、上の女が暗い目をして両耳を塞いできたら恐怖でしかない。完全にホラーだ。私、井戸から出できたの?「というか、なんでチェーンかけてたの私! ファインプレーすぎるでしょ過去の私!」もしあの時、チェーンがかかっていなくてドアが開いていたらと思うと、一瞬で血の気が引く。 結局なぎは「あれー? 鍵忘れた? まっ、いっか! またねー!」と、驚くほどあっさりと帰っていった。(彼女のそういう底抜けの抜けた明るさに、何度救われ、何度苛立ったことか)なぎの足音が遠ざかった後、彼とどんな顔をしてたのか、行為を続けたのか、実はあまり記憶がない。 ただ、静寂が戻った部屋で、私の両手が彼の耳を塞いだままだったことに気づき、「あ、ごめん」と素に戻って手を離した時の、あの尋常じゃない気まずさだけは鮮明に覚えている。「あーもう! 次どんな顔して会えばいいの!」というか、キッチンで朝ごはんを作ってくれている。スーパーダーリンかっ!私、サイコキャラだよー。私は床から跳ね起きると、再びベッドにダイブし、枕をボコボコに殴りつけた。シーツがくしゃくしゃになり、息が上がる。でも。 ふと、動きを止める。彼を塞いだ私の両手。あの時、確かに彼の体温が私の中にあった。彼を独り占めにしたという、暗く甘い背徳感と、あの時の彼の戸惑った顔。「…………悪くは、なかった、かも」誰もいない部屋でポツリと呟いた途端、顔から火が出るほど赤くなるのがわかった。 私は再びサメの抱き枕を拾い上げ、顔を埋めて、今日何度目かわからない静かな絶叫を上げたのだった。


カラン、と。古い喫茶店の鈍いドアベルが鳴って、二人が出てきた。傾きかけた太陽が街をすっぽりと琥珀色に染め上げる、夏の終わりの夕暮れ。 店の外で待っていた僕は、手持ち無沙汰のあまり、軒先にぽつんと置かれた色褪せたガチャガチャを回していたところだった。 ガチャリ、と軽い音を立てて手のひらに転がり落ちたプラスチックのカプセル。中に入っていたのは、子供騙しのチープな指輪だった。赤いプラスチックの宝石がついた、銀色のメッキ。「あ」店から出てきたなぎが、僕の手元を見て小さく声を上げた。 メロンソーダの甘い余韻を唇に残したままのような、無防備で柔らかい表情。彼女の大きな瞳が、僕の指先で光る安っぽいオモチャに釘付けになっている。 そのあまりに真っ直ぐな視線に、僕は思わず苦笑して、カプセルから取り出したそれを軽く放った。「やるよ」 「えっ、いいの?」両手でしっかりとそれを受け取ったなぎの顔が、ぱっと花が咲いたように明るくなる。その横で、栞の足がほんの一瞬だけ止まったのを、僕は気づかなかった。 ふいに突きつけられた無造作なやり取り。栞の胸の奥で、小さな棘がチクリと刺さるような痛みが走った。けれど、それは本当に一瞬のことだった。「わあ……」なぎが、そのおもちゃの指輪を高く掲げたからだ。 西日が、赤いプラスチックの宝石を射抜く。チープなはずのそれは、琥珀色の光を吸い込んで、まるで本物のルビーのように透き通った赤い光をなぎの頬に落とした。「けっこうキレイ」うっとりと目を細めるなぎ。そのあまりにも無邪気で、純粋に喜ぶ横顔を見て、栞は小さく息を吐き出し、胸の奥の痛みをそっと心の底へ沈めた。 こんな風に笑う彼女の前で、暗い感情なんて抱いてはいけない。栞は気を取り直すように、いつもの明るい声を作って空気を変えた。「さ、遅くなっちゃう。行こう」歩き出そうとする栞の腕に、なぎがふざけた調子で自分の腕を絡ませる。指輪をはめた左手をひらひらとさせながら、なぎは悪戯っぽく笑った。「どこへ? 教会?」 「は?」 「エスコートして、お母さん」 「お母さん言うな!」栞の呆れたような、でも隠しきれない愛情が滲むツッコミに、なぎがケラケラと涙が出るほど笑い転げる。僕もつられて笑い、三人の影が長く、長く、オレンジ色のアスファルトに伸びていった。どこまでも透き通っていた、他愛のない会話。 夕日に溶けていくような、二人の眩しい笑顔。 ただのプラスチックの指輪が、永遠の輝きを持っていると錯覚できた時間。——素晴らしかった。本当に、美しかったのだ、あの日は。あのおもちゃの指輪が、やがて鋭利な刃となって彼女の心を縛り付け、僕たちを暗闇の底へと引きずり込む鎖になることなど、まだ誰も知らなかった。 ただ琥珀色の時間の中で、僕たちは無防備に、永遠を信じて笑い合っていた。


キーボードを打つ手を止め、ふと窓の外へ視線をやると、いつの間にか空は深い藍色に沈んでいました。現在公開中のスピンオフ。メロンソーダに落ちたさくらんぼで涙が出るほど笑い転げる、なぎと栞の無防備な日常。 琥珀色の西日のなかでシュワシュワと弾けるその黄金色の時間をテキストに起こしながら、私の心は、どこかひどく締め付けられていました。彼女たちの他愛のない会話が透き通っていればいるほど。その笑顔が、眩しいほどに鮮やかであればあるほど。 物語の紡ぎ手である私には、彼女たちがやがて辿り着く「結末」が、鋭利な刃物のように痛く迫ってくるからです。あんなにも優しく、太陽のように笑っていた彼女たちが、やがてこの光あふれる世界を投げ打ち、身を寄せ合うようにして向かう暗闇の「駅」。 そこには、生々しく、目を背けたくなるほど激しく切ない痛みが待っています。 美しく笑い合う彼女たちの過去を書き進めることは、同時に、その残酷な未来へと彼女たちの背中を突き飛ばしているような錯覚を引き起こし、時折、どうしようもなく息が苦しくなるのです。「なぜ、そんな痛みを伴う運命を用意したのか」と、問われるかもしれません。 けれど、誤解を恐れずに言えば、それは絶対的な「救い」を描くためなのです。泥だらけになって、すり減って、それでもなお暗闇の底を這いつくばった者だけが、ようやく見つけることのできる光があります。 すべてを喪失したかのように思える深い夜の果て、冷たい鉄の匂いがする駅のホームのそのさらに奥で、彼女たちを待っているもの。 それは、痛みをくぐり抜けた先にしか存在し得ない、嘘偽りのない「希望」です。激しく切ない結末の、そのもうひとつ奥底にある静かな夜明け。 それこそが、日々を戦い、傷つきながら現代を生きる人たちにとっての、「真の避難所(オアシス)」になり得ると、私は強く信じています。僕自身が、激しい痛みと苦しみの先にみた「物語による救い」を皆様にも感じ欲しくて。それがあって初めて「なぎのえき」は完成します。今はただ、あの眩しかった日々の残り香を愛おしみながら。 彼女たちとともに暗闇のトンネルを抜け、その先にある小さな、けれど決して消えない希望の光を、どうか皆様と一緒に見届けることができますように。


なぎの笑い声は、透き通った炭酸水みたいだ、といつも思う。 シュワシュワと光を反射して弾けて、周りの空気まで明るく、甘く、美味しくしてしまう魔法。琥珀色の西日が差し込む窓辺で、彼女がふわりと笑う。その日、私たちは少し遠出して、ツタの絡まる路地裏にあるレトロな喫茶店に陣取っていた。 使い込まれたエンジ色のベルベットのソファ。柱時計の低い音が響く店内で、テーブルの真ん中にドカンと鎮座するのは、この店の名物『タワー・オブ・プリンアラモード』だった。窓から差し込む午後の光が、カットグラスの中でキラキラと乱反射している。「ねぇ、しおりん?……これ、本当にふたりで食べ切れるの?」 なぎは琥珀色の瞳をまん丸にして、不安そうに私を見上げた。その横顔の細い産毛までが、光に透けて金色の輪郭を描いている。その無防備な顔があまりにも可愛くて、私はつい、頼れる保護者を気取ってふんぞり返った。「任せて。私の胃袋はブラックホールだから。なぎは好きなフルーツだけ食べなよ」そう言いながら、私は一番上に乗った、宝石のように艶やかな『さくらんぼ』を、スマートにスプーンですくい上げ……なぎのお皿に乗せてあげようとした。……が、ツルッ。それはまるで、スローモーションのようだった。赤いさくらんぼは無情にも銀色のスプーンから滑り落ち、純白の生クリームの雪山を鮮やかに滑落。そのままテーブルをポーンと軽快にバウンドして、私のグラスの、深いエメラルドグリーンのメロンソーダに向かって「ぽちゃんっ!」と美しいダイブを決めた。数秒の沈黙。カラン、と氷が溶ける音が鳴る。 緑色の甘い水底で、赤いさくらんぼがシュワシュワと細かい銀色の泡を纏っている。「……メロンソーダ・チェリー添えの完成です」 私が大真面目な顔でそう言うと、なぎはピタッと動きを止め、肩を震わせ、次の瞬間、こらえきれないように吹き出した。「あはははっ! なにそれ、しおりん、奇跡の軌道すぎる!」お腹を抱えて笑うなぎ。窓越しの陽光が彼女の髪をきらきらと照らし、涙目になりながら笑い転げるその屈託のない笑顔を見ていると、さくらんぼを落とした私の恥ずかしさなんて、一瞬で光の中へ溶けて消えてしまった。「笑いすぎ! 私の華麗なマジックなんだからね!」 「もう、お腹痛い……っ」結局ふたりで、プリンアラモードの甘い山が溶けて崩れるのも構わず、ただただ、しばらく笑い転げた。なぎの、この無防備で楽しそうな笑顔が大好きだった。 甘い匂いに包まれて、他愛のないことで笑い合って。永遠なんてないと知っているのに、ずっと、ずっと、この黄金色の時間が続けばいいのにと願った。この温かくて甘く、キラキラと輝く日常こそが、私たちの「すべて」だと信じて疑わなかったのだ。あんなにも優しくて、太陽みたいに眩しかった彼女が、やがてこの光あふれる世界をすべて投げ打って、あっちの暗闇の「駅」へと駆け出していくことになるなんて。メロンソーダの泡が弾けるようなこの時の私たちは、まだ先の運命を何も知らずに、ただ、並んで笑い合っていた。


物語を紡ぐという作業を続けていると、時折、ひどく不思議な瞬間に立ち会うことがあります。 それは、自分がペンで生み出したはずのキャラクターたちが、ふわりと私の手元を離れ、自らの意志で呼吸をし、勝手に歩き始める瞬間です。今回の『なぎのえき』では、その「キャラクターが勝手に動いていく感覚」が、かつてないほど鮮烈でした。彼女たちが自らの足で歩き出すからこそ、そこには当然、本編のフレームには収まりきらない「空白の時間」が生まれます。あの時、彼女は何を思い、どんな景色を見つめていたのか。 本編では描かれることのなかった別の視点、あるいは交差することのなかった物語が間違いなくそこにある。そう確信したことが、今回のスピンオフ連載へと行き着いた理由です。そして正直に打ち明けてしまうと、本編そのものもまた、当初の予定を大きく超えるほどの熱量を帯びていきました。彼女たちの感情の奔流に導かれるように物語の密度は増し、私自身でさえ予想していなかった「驚きの展開」へと辿り着くことになったのです。今、原稿を前にして、静かで心地よい感慨に包まれています。なぎとの再会を果たし、栞の不器用で純粋な想いにふれる日々。 彼女たちの人生を私が書き記しているはずだったのに、気がつけば、私自身が彼女たちの熱量に引き上げられ、この物語に「生かされている」。そんな感覚が、心の奥底で力強く脈打っているのです。彼女たちが自ら選び取った、愛おしくも激しい軌跡。 そして、その先にある誰も知らない終着駅の風景を。どうか、皆様にも最後まで一緒に見届けていただけますように。


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