【中村京蔵連載企画】連載46回「三島由紀夫からフェードルそしてNINAGAWAマクベス」ーフェードル上演までの軌跡扮装に付きましては、活歴(明治史劇の有職故実に則った様式)にならず、三島の「芙蓉露」のやうに大時代にならず、かといって、大道具が大時代ですから、バランスを取るのが非常に難しかった!鬘から申しますと、フェードルは淀君にならないやうに前髪を取って錣の下げ髪風に致しました。歌右衛門の旦那は、芙蓉の前でも阿国御前でも、ビラビラの付いた姫の前挿しを付けていられましたが、時代過ぎるので、銀の折菊に致しました。鴨治さんの折菊はティアラ風な造りでよかったと思います。侍女二人も前髪を取った下げ髪にし、乳母は前髪を取ると色っぽくなるので、胡麻のかしき(下げ髪)に致しました。アリシー姫も振分の根取りの下げ髪とし、挿し物も銀鴇赤の前挿しと両天にするか迷ったのですが、鴨治お得意の古代の金物の櫛と両天に致しました。テゼは王様らしく、総髪の棒茶筅で、イポリットの父親ですから少し白髪を挿しました。イポリットは前半は総髪の切り藁で野性味を出し、後半は襟縛りと云う鎧姿に相応しいあたまに致しました。テラメーヌは白勝ちの胡麻で総髪の切り藁、青山さんの自前の髭を活かして頂きました!小姓は前髪の茶筅です。
【中村京蔵連載企画】連載45回「三島由紀夫からフェードルそしてNINAGAWAマクベス」ーフェードル上演までの軌跡ー前回、ラストで、手桶の芙蓉の花弁がハラハラと散る工夫がしたかったと述べましたが、親友から「フヨウ(木芙蓉)は全体がしぼんでポトリと花首から落ちるから、花弁がハラハラと散ることは無い!」と大目玉を喰らいました!無知をさらけ出すところでした(汗)実現しなくてよかった!(ニガワライ) 萎む工夫は、妹背山金殿の菊花の先例がありますから大丈夫ですが、花首がポトリと落ちる工夫は、はてどうしたものか?……小道具の近藤真理子さんの機知に期待したいところです! 同じくラストで、テゼが襖を開けると、上下の御簾も落ちて、荒海の情景になるのは私の提案で、大河内さんも賛成してくださいました!テゼの脳裡にイポリットの死がフラッシュバックする感じです。当初は照明と音響だけで荒海を表すつもりでしたが、梅乃さんの提案で浪布を使うことに致しました!蜷川先生も浪布を使うのがお好きだったので、先生も喜んでくださったことと存じます。梅乃さんの提案に感謝です!
【中村京蔵連載企画】連載44回「三島由紀夫からフェードルそしてNINAGAWAマクベス」ーフェードル上演までの軌跡ー 爽涼の會「フェードル」公演は終わりました……… 3年越しの企画は、たった2日で終わりました…… 今は寂漠たる思いで茫然としております…… しかし、この連載もそろそろ幕を引かねばなりません…… 気を取り直して️! 「NINAGAWA・マクベス」に倣って、フェードルを和様式でやったことに付いて、シェイクスピアとラシーヌでは演劇としての質が違うとおっしゃる向きもあろうかと思いますが、蜷川先生が「マクベスは只の夫婦愛の芝居じゃない!」とおっしゃるように、フェードルも、継母の情念だけの芝居じゃないという方向性は、私も演出の大河内さんも一緒なので、そこには政争と更には神々の存在が絡んで来ますので、スケール大きく、壮大な様式が必要で、それには歌舞伎の時代物の様式がピタリと当て嵌まると踏んだわけです! 大道具から振り返ってみますと、大河内さんの意向で壁も黒塗りにした高二重の御殿は正解だったと思います。 金襖の芙蓉の花の丸と縁先の手桶の芙蓉の花は、三島由紀夫へのリスペクトです。手桶の芙蓉の花は、ラスト、フェードルの絶命とともに、花弁がハラハラと散るようにしたかったのですが、難しい仕掛けなので断念しました……無念です!笑笑
【中村京蔵連載企画】連載43回「三島由紀夫からフェードルそしてNINAGAWAマクベス」ーフェードル上演までの軌跡ーこの連載もいよいよ大詰になって参りました。「NINAGAWA・マクベス」に刺激を受け、ヒントと示唆を頂いた私は、つまり、海外戯曲を自国の様式で上演することになんの違和感もないということで、稽古を重ね、台本を熟読するうちに、益々その思いが強くなって来ました。6世中村歌右衛門の旦那が、訪ソビエト歌舞伎公演の折、ウクライナの劇団が近松の「心中天網島」を自国の様式で上演したのをご覧になって、言葉は解らなくても、治兵衛や小春やおさんの心情がよく解って感銘を受けたとおっしゃっていますが、私はそれにも背中を押されたのです!
【中村京蔵連載企画】連載42回「三島由紀夫からフェードルそしてNINAGAWAマクベス」ーフェードル上演までの軌跡ー話しが横道に外れるどころか迷宮の道に踏み迷っております!この連載記事は何処に立ち戻れば宜しいのでせうか?(冷や汗) 兎に角、私は1980年に「NINAGAWA・マクベス」初演を観て衝撃を受け、ずっと後年の2015年に、今度は魔女役で出演することになって、改めて「NINAGAWA・マクベス」の素晴らしさを実感し、それが封印していたフェードルへの思いを解錠させたのでした!