富士山は、日本で最も標高が高く、他の山体から独立した独立峰で、形状は鋭い円錐型です。これらの特徴により、富士山頂の大気中二酸化炭素(CO2)濃度は、低標高に分布する都市から排出されるCO2や植生の光合成により吸収されたCO2等の影響をほとんど受けません。つまり、富士山頂は大気中のCO2濃度を長期間安定的に観測する地点に適しています。 国立環境研究所は、NPO法人富士山測候所を活用する会の支援の元、2009年から富士山頂で大気中の二酸化炭素濃度を観測しています。これまでの11年 (2009年7月から2020年7月まで)の観測期間で富士山頂の大気中CO2濃度は27 ppm (388 ppmから415 ppm) 増加しており、1年間に増えるCO2濃度の量は、どんどん増加しています。 大気中の二酸化炭素(CO2)濃度は地域によって若干異なります。なぜならCO2の吸収源と排出源の強度に地域性があるためです。国立環境研究所はこれまで11年間、富士山頂周辺の大気中CO2濃度をモニタリングしてきました。その結果、富士山が大陸に近い場所に位置しているため、富士山頂のCO2濃度データは中国大陸沿岸域のCO2の排出源やシベリアのCO2の吸収源の微小な変化を捉えていることが明らかとなってきています。上の図は富士山の東側にある代表的なCO2濃度観測地点(南鳥島やハワイのマウナロア観測所など)では、平均化された空気塊を計測しているため、捉えられない事象です。今後も富士山頂でのCO2濃度観測を継続させ、アジア域の炭素循環の変化を捉えていきたいと考えております。なお、測定法や富士山頂ならではの苦労話は(その2)、(その3)でご紹介します。
空気中に浮かんでいる液体や固体の粒子を大気エアロゾル粒子といいます。大きさは数nm(ナノメートル)(1nmは千分の1um(マイクロメートル))から数10 umまで存在します。健康影響が問題になっている PM2.5もエアロゾル粒子ですが、2.5 um以下の粒子を質量で表します。二酸化炭素などの温室効果気体の増加により気温が上昇していることはご存知だと思います。エアロゾル粒子は太陽光を直接、散乱・吸収し、雲粒の核として働き雲の反射率や寿命を変えることで気候へも影響します。おおよそ、地球を冷やすことがわかっており、エアロゾルも悪役ばかりとはいえません。その冷却効果は二酸化炭素の温暖効果に匹敵するという報告もありますが、まだよく分かっていません。私たちは7月、8月だけですが2006年から富士山頂で大気エアロゾル粒子の測定を行っています。 2006年の夏には空気1ccあたりに約800個ありましたが、2019年には約200個とこの13年の間に約四分の1に減少しています。特に出来立ての小さい粒子(核生成)の数が減少しています。これがどのように気候へ影響するか目下解明中です。今年は山頂の観測が中止になってしまいデータが途切れてしまいましたが、来年からまた観測が続けられるよう準備を進めていますので、ぜひ、ご協力をお願いします。
こんにちは。以前、富士山測候所の観測作業を終えて下山後の日帰り温泉が楽しみだとお話ししました。今回、その温泉についてお話しします。富士山頂での観測作業を終え、御殿場口に下山したあとは、楽しみにしていた温泉です。富士山の近くにあるいくつかの温泉に行ってみましたが、私たちの一番のお気に入りは「御胎内温泉」です。ここは御殿場口5合目から車ですぐのところにあり、かつ入浴料が500円(確認したところ、現在は平日600円、祝日800円に値上がりしておりました)と安いです。市街地から少し遠いためか夏休みもそれほど混んでおりません。青空の下の広々とした露天風呂はとても気持ちがよく、約束しているわけではありませんが、他の下山したグループの大学や研究所の先生方、学生さん達とも必ずお会いします。先生方、学生さんたちと露天風呂に入りながら、いろいろなことをお話ししますと本当にリラックスします。1泊2日の山頂での作業の汚れと疲労を洗い流し、心地よい疲れとともにその後帰路につきます。みなさんも富士山登山のお帰りにいかがですか?
2005年5月の第25回日本登山医学シンポジウムの総会において、次の3項目の提案が満場一致で決議されたのである。すなわち、 1)富士山頂を高山病予防の基地にする。 2)富士山頂を高所順応のセンターにする。 3)富士山頂を高所医学研究のメッカにする。 6000m以上の高峰登山者の2.3%におよぶ遭難による高い致死率を出来る限り低減させるために高山病予防のために高所順応トレー二ングが不可欠であるとのコンセプトから富士山頂での高所順応の重要性が指摘される。 山本と浅野(2009)の”富士山測侯所を利用した短期間の高所トレー二ングの效果”において山頂での2泊3日滞在による高所順応により低酸素耐性の向上することを明らかにした。 浅野と内藤(2009)の”富士山頂短期滞在時の自律神経応答と高山病への鍼施術效果に関する研究”では、自律神経系の交感神経の亢進が高山病に起因していることが想定されることから副交感神経への刺激がこの予防回復に有効と考えられる。このための試みの一つとして、東洋医学の観点より"合谷”(ごうこく、拇指と一差し指の基部)を鍼通電刺激法(1Hz,15分間)により刺激し、動脈血酸素飽和度(SpO2)さらに心拍変動解析による自律神経応答を解析した。 短期滞在の学生および研究者9人、および3週間滞在の山頂班員3人の計12人について検討した結果、本刺激によりSpO2の上昇傾向が確認され高山病対策に貢献できる。(本実験中の写真を参照) 岡崎と浅野らは2011年より2014年にわたり御殿場と山頂での安静および3分間踏み台昇降運動時のSpO2、NIRSおよび経頭蓋ドプラー法による脳動脈血流量の変動比較を行った。この結果から脳血流量の増加が頭痛など高山病の誘因である可能性が明らかにされた。 ー高所順応トレー二ングの実施経緯ー2008年8月 日本山岳協会高知岳連(市村隊長 以下隊員10人) 2泊3日滞在2009年8月 日本山岳協会埼玉岳連(烏 隊長 以下隊員10人) 2泊3日滞在 日本山岳会青年部 2泊3日滞在2010年7月 静岡市山岳連盟 (出利葉隊長 以下隊員13人) 2泊3日滞在2013年8月〜2017年 ヒマラヤトレッキング隊(8〜10人) 1泊2日滞在 2019年8月 日本山岳会創立120周年記念登山エクワドル国チンブラソ峰登山隊 (渡邊 雄二隊長 以下隊員15人) 2泊3日滞在 以 上
ここがどこだか判りますか? 今のNPOが結成されるよりも前の話ですが、気象庁が設置している避難小屋の1つである7合8勺(標高3,240m)の小屋も、観測のためお借りしていたことがあるのです。今でも小屋は残っていますが、登下山のルートからは少し離れていますので、あまり気づく方も無いでしょうか。 写真で見るとおり、この小屋は富士山の円錐形をそのまま現した斜面がひたすら続く位置にあります。そうした所で風を見ていると、人と同じように(!?)空気も斜面をじわじわと登っていく様子がよく判ったものでした。 富士山の周囲を吹く風も、斜面を這い上がったり、左右に回り込んだりと色々な姿を見せてくれます。そんな様子も捉えられたらいいですよね。