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お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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…これでやっと終わった。辛かった。でも自分に危害を加えようとする力が働いた時の対処と解決方法を学んだ。花南にもお礼しなければ。何にしよう。そうだ。花南はスーツを持っていない。何時も遠慮がちの花南を強引にでも連れ出して黒のスーツ一式を買い揃えよう。靴も大切だ。花南は社会人だ。ローファーとスニーカーでは恥ずかしい思いをする。黒のローヒールが在れば葬祭も困らない。よ~し。こうなったら頭のテッペンから足先までだ。後ろを刈り上げたベリーショートにする。行きつけの美容院に連れて行って刈り上げる。花南が嫌がっても刈り上げる。何時もひっつめのポニーテールでは花南のポテンシャルが活かされない。きっと似合う。だったら私も刈り上げる。二人揃ってのベリーショート。みんな驚くだろうなぁ。それから美味しいものを食べる。フランス料理は止める。肩の凝らないステーキかイタリア料理のヴァイキングが二人に合っている。そしてスィーツ。嫌なことの後は楽しくて当然… 美子は躊躇う花南を無視して馴染みの美容師に「二人とも後ろをバッチリ刈り上げたベリーショートにして下さい。前髪は七三で」と頼んだ。 花南が最初。 観念したのか花南は眼を瞑ってセットチェアに座っている。「花南。大丈夫。絶対似合うから」「二人とも刈り上げベリーショートとは驚いた。二人とも似合うはず…」 二十五歳位の男性美容師が美子にウィンク。 美子は眼を閉じ緊張している花南に今夜の食事を提案した。 しばし考えていた花南が眼を開いた。「今夜は無理だけど早川瑞希さんと三人で食事会はどう…。きっと楽しいと思うんだ。金曜日はどう…。美子を瑞希さんに紹介できるし食事も。一石二鳥って云うやつ。美子には一杯お金を使わせたから今夜は軽くワリカンでさ」「あんたに気を遣わせて遠慮されたら私が面白くない。絶対に奢る」「分かった。美子は言い出したら聞かないから美子に甘える。ちょっと甘え過ぎだな。でもありがとう。葬祭用の黒のスーツは必需品。ローヒールもね。美子が選んでくれたスーツは大学生のリクルートスーツみたいだった。デザインにオバさん感が全然なかった。ちょっとした時にも着られる」 花南のカットが終わった。助手がシャンプーの準備を始めた。 今度は美子。セミロングのストレートとお別れ。 髪を切ると気分が変わる。まして今回は花南と一緒。 花南はドライヤーで髪を乾かしている。                                「美子。食事会の場所はわたしに決めさせて…」    「構わないよ」「一度瑞希さんに連れられて行ったイタリアンのバイキングはどう…」「私もイタリアンを考えていた。それで良い」「円山公園駅の傍にあるんだ」 美容師が手鏡をかざして刈り上げた美子の後ろを示した。 美子はセットチェアの正面に据えられた鏡を観た。…似合っていた。花南も自分のポテンシャルを開花させている…「二人で並んで街を歩いたらみんな振り返る。甲乙つけがたしだ」 美容師が嬉しそうに人を見比べた。 美子も花南も上気したまま眼を合わせ満足。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12を開いて下さい。


 美子は花南のスーパーに向かった。 花南の早番を願って伏見行きのバスに載った。 報告は早い方がイイに決まっている。矢野先生も早い方がイイに決まっている。変態の拘留は最短で三日。その間に弁護士の誰かに依頼して私との示談交渉に臨むかも知れない。私単独で交渉しても構わないけれど弁護士には弁護士が通り相場。一度も会ったことが無い矢野先生。花南を助けたのだから私も助けてくれる。それに矢野先生からもストーカーと拉致監禁に釘を刺してもらいたい。警察と検察官と弁護士に釘を刺されたら変態は身動きできないだろう。示談交渉の時には必ず俎上に載せてもらおう。 ラッキーだった。花南は早番。 美子は近くのヴィクトリアで花南に報告を済ませ矢野先生の紹介を頼んだ。「分かった。先生に頼んでみる」 花南は矢野弁護士にショートメールを送った。『わたしの親友の仲美子が困っています。先生。相談に乗って下さい。花南』 花南らしい素早い展開。本当に頼りがいがある。 五分もしないうちに花南のスマホに着信が届いた。「美子。これから先生の事務所に行こう。二人で来てくれってさ」「よし。行こう。ありがとう」「なんも。なんも。あれ以来先生と逢っていないんだ。わたしも逢いたかったから渡りに船さ。高認合格は報告すると約束していたけれど中認は報告していないんだ。それと先生に個人的に聞きたいこともあるし…」 美子がレジで花南分も支払って二人はバスに乗った。 伏見からはバス。円山公園駅で地下鉄に乗り換える。  美子を秘かに連写した男がバスに同乗していた。 男はバスの中でも美子を隠したスマホで撮った。                                 花南が円山公園駅に隣接したキャラクターグッズの店に立ち寄った。 そこでキティの同じキーホルダーを三つ買った。「わたし。先生に何もお礼していないんだ。だからさ。はい。これは美子分。三人が同じキーホルダーはお守り。美子の生涯最大のピンチだから」「気をつかわせるね。ありがとう」 矢野修弁護士は花南から伝えられていたイメージ通りだった。 花南を出迎えた時の嬉しそうで優しそうな笑顔。 キティのキーホルダーを手に取った時には子どものようにハシャイだ。 ひと度相手を凝視した時には威圧感の在るギョロ眼。 美子も矢野弁護士の部屋に通されるとギョロ眼の一瞥を浴びた。「そうか。花南は今年の十二月に高認に挑むのか。楽しみにしている。美子に尋ねるが被害届は中央署の誰が持っているのか。それを知っていると私の動きが早くなる。それと嘘つきの被疑者に厳罰を望んでいるのかな…」 矢野弁護士は美子の依頼を受けるとはひと言も発しなかった。 依頼を受けるのは当然との様子。「厳罰を望んでいるのではありません。今回恐いと思ったのが巨樹の陰の暗闇に潜んでいた妖怪のような三角の白い眼。三角の白い眼が私に向かって来る気配。それとストーカーと拉致監禁。それへの不安を取り除きたいんです」「そうか。相手の出方次第だな」 矢野弁護士は事務員を部屋に呼んで二枚の書類を持って来させた。「美子は未成年。私に依頼するには美子の委任状の他に両親の同意書が必要なんだ。これが委任状と同意書。委任状は今書いて。同意書は三文判で構わないから御両親に心配かけたくなかったら美子が字体を変えてこっそり書く。これを私から聞いたとは絶対の禁忌。口外してはならない」「分かりました。委任状は今書きます。でもハンコを持ってきていません」「サインでOK」「同意書は明日届けます」「了解」「私。先生へのお礼をどうしたらイイのでしょうか」「弁護士会の報酬基準では依頼時には着手金が一〇万円程度。報酬は着手金込みで実額の二割程度。これを伝えたのは社会勉強。花南の紹介で親友の依頼だから着手金はいらない。それに被疑者が弁護士に依頼して示談しようとするのかはまだ分からない。通常は示談に向かって相手が動き出した時に依頼する」「変態嘘つきの鳥居一平は示談交渉に踏み切るのでしょうか」「私の経験では強制ワイセツで身柄を拘束された被疑者は余程のことが無い限り示談を追及する。示談が成立しないと拘束が解かれない」「そうですか。今日先生にお願いして良かった。宜しくお願いします」「任せて下さい。しかしだ。花南を初めて見た時に溌剌としていて驚いた。十四歳で弁護士会に年齢を偽って相談に来るとは稀有だ。偽った年齢にも動じなかった。腹が座り、何が何でも、疑問を晴らしたいとの念が伝わって来た。そ                                の疑問も…中学生はナゼ働けないのか…だった。こんな相談は経験していなかった。これからも無いだろう。美子にも驚かされた。美子はキラキラしている。名前の通りの美人。そして可愛い。けれど美人で可愛いだけでは無い。表情に知性が躍動している。それがキラキラと輝く。二人とも大人への階段を自分なりに上っている。青春の真っ只中に居る。私の高一の時は暗かった。ドンヨリしていた。青春していなかった。司法試験は頭に在った。合格するまでの道のりの長さと困難に打ち負かされていた。司法試験に合格する二六歳まで私には青春が無かった。二人を見ていると眩しい。ところで花南。彼氏ができたんだって。花南が見染めた男子に興味が湧く」「はい。高認に合格した時に連れて来ます」 チラッと花南が恥ずかしそうに美子を見た。「先生。今どきの高校二年生のように見えて全く違う。良い男子です」 美子は自分のことのように自慢した。 花南の顔が朱色に染まった。それからは下を向いたまま顔を上げなかった。  美子と花南は矢野法律事務所のビルから外に出た。 その時に二人は隠し撮り男からフォーカスされていた。「花南。先生に聞きたいことを聞かなかったね。それでイイの…」「聞きたかったけれど又の機会にした。今日は美子が主役だから」「そうか。又の機会は近々にありそうだね。差し支えなかった教えて」「うん。ちょっと言い難いなぁ」「無理しなくてイイよ」「うん。でも言っちゃう。職場の事実上の上司との不倫」「えっ。不倫」「わたしは知っていますと伝えたかった。わたし。二人を認めているんだ」「先生もやるね。花南は先生と近い処に居る。これも縁だね」「うん。そう思う」「花南から聞かされていた先生はイメージ通りだった。とても頼りがいのあるお茶目な弁護士さん。先生には青春が無かったから今青春しているんだ」「でもそれが不倫だとちょっと物悲しい」「そうだね」 二人は西十一丁目から内回りの市電に乗った。「花南。矢野先生の不倫相手はきっと特別な人なんだと思う。違う…?…」「特別がふさわしいのか分からない。でもね。わたしはあんなに素敵な大人の女性に出逢ったことがない。わたしは可愛がられているんだ」「そうなんだ。花南が可愛がられているのは私にも分かる。素敵な大人の女性は優秀なんだ。仕事ができるんだ。一生懸命に仕事する花南を認めている」「美子。機会を作るから三人で食事しない」「あんた。大人になったみたい。一緒に食事しないを子どもは言えない」                                「そうだね。思わず言ってしまった。でもわたしはまだまだ子どもだよ」「私と同じだ。機会を作ってね」「分かった。美子に紹介したかったんだ」 二日後の昼休み。 美子に高島と名乗る弁護士からスマホに連絡がきた。「鳥居一平氏の依頼で代理人に就きました。宜しくお願いします。早速ですが被疑者が示談交渉を望んでおり受けて頂きたいのですが」「分かりました。私は既に矢野修弁護士に委任しております」「そうですか。用意周到なんですね。では私から矢野先生に連絡します」 やはり変態は示談交渉に踏み切った。 あとは矢野先生に任せる他ない。 任せられる弁護士が居るとこんなにも心が軽く落ち着くんだ。 授業が終わるとそれを見計らったかのように矢野先生からショートメール。『これから事務所に来てもらえるかな。君の意見と同意が必要なんだ』 美子は余りにも早い展開に戸惑った。 あの日、花南と一緒に矢野先生を訪ねて良かったのだ。グズグズしていたら高島弁護士からの電話に動揺。それからの動きでは遅い。単独での示談交渉には無理がある。流れが分かっていない。それに示談金の相場も一度聞いただけ。実感が湧かない。要するに私の実力以上。花南はグズグズしない。それは今回だけに限らない。何時もそうだ。それに救われた。 美子は市電の外回りに飛び乗った。ゆっくりと進む市電から返信した。『市電の中です。あと十五分で着きます』 先生が事務所の入っているビルの外に出迎えてくれた。「示談がまとまりそうな局面なんだ。それで来てもらった。示談金は五〇万円。被疑者は今後一切仲美子に近づかない。これで良ければ被害届を取り下げる」「五〇万円とは大金ですね。私が最も重要視しているのが…今後一切近づかない…なんです。もし変態が近づいた時にはどうなるんです」「それは示談書の合意違反。被害届の取り下げを撤回できるのと合意違反を根拠にした民事訴訟が待ち受けている。その時は私が訴訟を担う」「法律上の書面での合意とは重くて力が在るんですね」「その通りだよ。口頭でも合意違反に対して念押しするかい」「お願いします」「ではこれで進めるね」「お金は何時支払われるのですか」「早ければ今日中。でも今日はもう銀行業務が終わっている。今日払い込んでも着金は明日の朝イチになる。私の口座への着金を確認してから被害届の取り下げ。これは私がやる。それを待ってから被疑者の保釈」「流れが素早いんですね。先生のお礼はどうしよう」「花南のマブダチだから一割で充分だよ」                                「わぁ。値引きだ。本当にありがとうございます。これでやっと変態から逃れられる。イヤな気分から解放される。先生。弁護士って素敵な職業ですね」 矢野弁護士は、はにかみ、照れていた。                                 美子は何度も振り返り、見送ってくれた、矢野先生に手を振り続けた。 先生は右手を胸の前に置き小刻みに振って応えてくれた。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12をクリックして下さい。                              


 翌日、美子は授業を終えると市役所本庁に向かった。変態の名刺には左上に札幌市のスマイルロゴが赤く入っていた。一Fの戸籍係を遠くから見渡した。 結構な人が仕事に励んでいた。変態の姿を見つけられなかった。 美子は見つけようと首を伸ばしてウロウロ。 訝られたのか警備員に呼び止められた。「君は何をしているのかな」「えっ。私ですか。人を探しているんです」 美子は変態の名刺を差し出した。「この人に会いたくて探していました」 警備員は名刺を受け取ると総合案内に向かった。美子はその後に付いた。 総合案内の女性が受話器を取った。直ぐに受話器を置いた。「この名刺の男性は市役所本庁の戸籍係には居りません」 美子は耳を疑った。「居ないって。だったらこの名刺はニセモノ」「そう思います」と総合案内の女性。 そうか。だからアッサリと名刺を差し出したんだ。その場を逃れるための有効な手段として変態は名刺を使ったんだ。だったらナニモノ。 美子は動揺。 アカナラの樹立ちの陰の闇に光っていた三角の白い眼。三角の白い眼が私を凝視していた。時折三角が動いた。不気味だった。恐かった。何か企んでいる。コンビニで見た時はそんなに悪い奴とは思えなかった。ツーブロックと爽やか系の顔立ちに惑わされたのだ。痴漢の時の髪形は覚えていない。あの時は顔と耳朶のホクロが精一杯だった。名乗ったのは本当に拙かった。戸籍係で無くとも我が家を調べられる。我が家は住宅地図に載っている。写真を撮らなかったのは大失敗。素直な態度に騙されてしまった。これはかなりヤバイ。これからは背後に注意しよう。変態がタクシーに笑顔で手を振ったのは警察を回避する作戦成功の合図だったのだ。舐められてしまった。許せない。変態の企みとは何だろう。時折女子高校生の拉致監禁が報道される。長い時には一年以上も監禁。靴もスマホも取り上げられ縛られたまま。犯人は中年とは限らない。若者も居た。監禁されている間は四六時中痴漢され続ける。…イヤだ…                                  美子は警察に行くと決めた。 もう独りでは手に負えない。花南や大輔の助けを借りる訳にはゆかない。二人とも大切な毎日が在る。再度、変態を探し出しトッチメルには偶然が必要になる。偶然見つけるには膨大なエネルギーが要る。見つけられないかも知れない。見つけ出したとしても対峙した時のリスクが大きい。家を発見された時にはストーカーに追われる日々が続く。独りでは解決できない。変態は嘘つきだ。痴漢の常習犯かも知れない。そして何かを企んでいる悪い奴。  美子は中央警察署の入口に続く半円形の階段を上がった。 市役所本庁から西に六〇〇メートル。 受付の窓口で来署の理由を告げた。 受付は女性だった。それが心の負担を軽くした。 痴漢されたを男性に言うのは躊躇う。男性の好奇の視線を浴びてしまう。好奇とはスケベ心だ。痴漢と共通するスケベ心に向き合うのはイヤだ。 廊下に置かれた長椅子に座っていると制服の女性が現れた。促され後について行くと『取調室』と表記された部屋に通された。 美子は制服の女性から名前と住所と年齢と高校名を尋ねられた。 美子は痴漢された日時と詳細を言った。最後に変態の名刺を机に置き「嘘っぱちの名刺だった」と伝えた。 制服の女性は美子の早口を素早くメモしていた。書き終えると「少し此処でお待ち下さい」と言い部屋から出て行った。 美子は今喋ったことに付け加える何かが無いかを反芻していた。 ふたつ在った。 ストーカーに付け狙われる。それと拉致監禁。  一〇分ほど待っただろうか。 スーツ姿の男性二人が部屋に入って来た。続いて制服の女性も。 年配の男性が机の上に写真を三枚置いた。「この中に君を襲った痴漢は居るかな」   居た。置かれた三枚の写真の真ん中にツーブロックの変態が居た。 美子は変態が写っている写真を指差した。「コイツです」「こいつは鳥居一平と云って痴漢の前がある。一年前の時は初犯でもあり本人の反省の下で起訴猶予で済んだ。性懲りもない奴だ。検察官の前での反省は見せかけだった。痴漢する奴は捕まったら反省して痴漢を繰り返すんだ」「ひとつ聞いてもイイですか」「どうぞ」「こいつはナニモノなんですか」「市役所の職員でないことは確か。前回の時にはスマホのアプリ製作の会社に勤めているとのことだった。今も同じ会社に勤務しているかは不明。IT関連の者たちは会社の移動が頻繁だ。独立する者も多い。しかし同じ業界で生計を立てる。見つけ出すのは難しくない」「捕まえて下さい。お願いします」「分かった。しかし君がこの鳥居一平から被害を受けてから一ケ月以上も経っている。どうして被害を受けたその時に警察に来なかったんだ」「自分で見つけて、捕まえて、謝って欲しかったから」「そうか。随分と勇気があるんだ」「友人と捕まえる約束しました」「その友人って女の娘」「はい。小っちゃい頃からの親友です」「ひとつ忠告しておく。犯罪者を自力で捕まえるは無茶に繋がるからね」「はい。分かりました。警察に来て良かったです」「この偽物の名刺は預かるからね」「はい。宜しくお願いします」 美子が名刺に同意すると刑事と思しき二人は部屋から出て行った。「仲美子さん。これから被害届を作成します。宜しいですか。痴漢退治は親告罪なので被害届が出されないと警察は捜査も逮捕も任意での取り調べもできないのです」と制服の女性が被害届と記入された用紙を机に置いた。「あの~。書き方が分かりません」「大丈夫。私の問いに答えて下されば被害届が完成します」 美子は中央警察署から出た。制服の女性が見送ってくれた。「三日もあれば警察に連行されます。その知らせを欲しいですか」「はい。お願いします」「では私が責任をもって連絡します。スマホの番号を教えて下さい」 制服の女性は警察手帳を開いた。開くと写真。『細川恵花警部補』。 三日後に細川警部補から美子にショートメールが送られてきた。『鳥居一平被疑者が任意で本日の十五時に出頭します。それから取り調べ。貴女も別室で取り調べを見られます。来られますか…』『必ず行きます。十四時二〇分で授業が終わります。それからタクシーで』『ではお待ちしています。受付で私の名前を告げて下さい』 美子は指示通り受付で「細川警部補に呼ばれて来ました」。 直ぐに細川警部補が現れ二階の部屋に通された。 部屋は狭かった。四人も入ると窮屈。マジックミラーが少し低い隣の部屋を映し出していた。映画やテレビの刑事物と同じシーン。 変態が首部を垂れて座っていた。 落ち着きが無い。 そこへ前回と同じ二人の刑事が入って来た。 年配が椅子に座り若い方が変態の後ろに立っていた。「鳥居一平さんだね」「はい」   取調室の声がスピーカーから流れ良く聞こえる。「貴方に痴漢されたと云う被害届が出されています。逮捕することも出来ましたが逃亡の恐れが無いとの判断で任意での取り調べになります。言いたくないことや自分に不利益になると思ったことには黙秘できます。君はこれで二回目の痴漢の取り調べだから知っていると思いますが警察は被疑者に黙秘権を伝える義務があります。要するに喋りたくないことは喋らなくてもいい」 後ろに立っていた若い刑事が前方に回り込み被害届を読み上げた。 座っている年配の刑事は変態の表情を鋭い眼で見つめている。 美子も変態の表情と動作に集中した。「今読み上げた内容に間違いは無いですか」「…。間違いありません」 座っていた刑事が嘘の名刺を机に置いた。「何故嘘の名刺を被害者に手渡したのですか」「公務員の名刺は彼女に安心してもらう為でした」「彼女は不信に思い翌日に市役所本庁の戸籍係に行って確かめた」「そうですか」 変態は更に落ち着きを無くした。 美子は変態の心の動きを掴んだ。―まさか。確かめるなんて。渡さなければこんなことにはならなかった―…やっぱり小娘と舐められていたんだ…「私文書偽造は作るだけでは罪にならないが使った瞬間に犯罪になる。三ケ月以上五年未満の懲役刑が科せられる。痴漢は強制ワイセツ罪。六ケ月以上一〇年以下の懲役。これは知ってるよね。君の今回は併合罪だ」「併合罪ってナニ」 美子は細川警部補に尋ねた。「後で伝えます。これからをよ~く見ておきましょう」 変態も私と同じく併合罪が分からなかったみたいだ。訝しげに顔を上げた。口をモグモグ。何かを聞きたがっている。併合罪ってナニと読み取れた。 二人の刑事は応えなかった。 もう一人の若い刑事が入って来た。 座っていた年配の刑事が頷いた。 それを合図に入って来たばかりの若い刑事が退室。「若い刑事さんはこれから裁判所にひとっ走り。逮捕状の請求よ」「えっ。変態は逮捕されるんですか」「二回目の強制ワイセツ罪と私文書寄偽造行使の併合罪ですから。併合罪とは犯罪を犯した時にふたつ以上の罪を重ねる時に適用される。重い方の法定刑の一.五倍の量刑になる。今回は九ケ月以上十五年以下の懲役刑」…な~るほど…「逮捕されるとどのくらい出て来られないのですか」「最短で三泊四日。最長で二十三日。その間に検察官が起訴するか否かを決める。逃亡と証拠隠滅の恐れが無いと裁判所が判断した時には保釈される。今回の場合は既にふたつの罪を認めているから三泊かな。長くて一〇日」「もうひとつ君に尋ねたい」 年配の刑事が言った。「何故被害者を狙ったんだ」「それは言いたくありません」「そうか。言いたくないのなら無理強いできないな。しかしだ。具体的な動機を明らかにすると情状酌量の対象になるやも知れないぞ」…これって誘導尋問だ。オジさん。なかなかやる…「可愛かったから…。彼女と付き合ってみたかった」「オマエ。馬鹿だな。痴漢しておいて付き合ってみたい…なんて通用しない」「はい。馬鹿です。偶然出会ったこの時を逃してはならないと手が勝手に…」「お前。普通では無いな。偶然出会ったこの時を逃がしてはならないと思ったのなら被害者が地下鉄から降りた時を見計らって声を掛けるのが普通だ。いわゆるナンパ。ナンパなら罪にはならない。警察の世話にもならない」「勇気がなかった。断られるのが恐かった」「勇気が無くて、恐くてナンパできないから痴漢したのか」「結果だけを捉えたならそうなりますが…。手を制御できなかった」「確かに被害者は可愛い。そして美人だ。俺の娘と比べたら月とスッポン。どんな大人になるのか楽しみになる。だからと言ってだ。被害者のような美人で可愛い娘が街を闊歩したり満員の地下鉄に乗るのを差し止める法律は存在しない。それは自由の範疇。しかし闊歩や満員の地下鉄は罪作りと思ったりする。それでも大多数の男は罪を犯さない。極少数の君のような者の衝動が犯罪に走る。君は抑制力が欠落している。それを自覚しろ」…オジさんと変態に褒められても嬉しくない… 変態は更に首をガックリと垂れていた。「もうそろそろ逮捕されます。その瞬間を見ますか」「いいえ。もう充分です。男の人の心理の不思議を発見できたから」「大事なことを伝えます。被疑者が弁護士を付けた時には必ず示談金の話になります。だいたい三〇万円から一〇〇万円の範囲になるかと思いますが貴女も弁護士の準備をしておいた方が慌てなくても済みます」「私。示談してお金をもらおうと考えていません」「貴女がそう言うのは分かります。しかし被疑者にとって大切なのが示談金。合意した時には被害届を取り下げることになります。取り下げた時には強制ワイセツ罪が適用できなくなり私文書偽造行使だけになり罪が軽くなります」「示談金ってそう言う意味なんだ。だったら考えます。大人の解決方法なんですね。大人の解決方法のひとつがお金。勉強になりました」 美子は細川警部補に付き添われて中央署の玄関に立った。「今日は色々と教えて頂きありがとうございました。変態との終わりは裁判所からの判決。その前に示談金も在る。今日で終わりにしたかったけれどもう少                                 し時間がかかると分かりました。私の終わりとはストーカーからの付け狙いと拉致監禁の恐怖からの解放です」「それは私も刑事さんたちも分かっています。検察官にも伝えます」 美子は細川警部補に深々とお辞儀して中央警察署の階段を降りた。…いや~。緊張した。肩がこった。弁護士さんは花南に相談する。矢野先生を紹介してもらおう。これで今日がやっと終わった。ストーカーと拉致監禁への恐れは警察がカヴァーしてくれるはず。とりあえず今日は終わったのだ… 美子は両手を組み頭の上まで伸ばした。肩と首がボキボキ鳴った。 その時にすれ違った男が居た。男は胸ポケットに忍ばせたスマホのフォトスイッチを入れた。男はスマホをコードで遠隔操作していた。連写。 美子は気づかなかった。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12をクリックして下さい。


 見つけた。 変態が釣り皮につかまっている。 ガラ空きの地下鉄。 これでは痴漢できない。 美子は地下街の大型書店からの帰りだった。 市電でも帰れる。 市電は遅い。 動いているより停まっている方が長い。 他にも地下鉄に乗ったのは理由があった。 変態を捕まえたかった。 花南と捕まえる約束。 朝夕のラッシュには花南が無理だった。 変態を見つけ出し捕まえるのに仕事を休ませられない。 やっと見つけた。 変態はサラリーマン風情の三〇歳手前。 如何にもサラリーマンと主張しているありふれた濃紺のスーツ姿。 イアホーンを耳に当ててスマホで曲を聴いている様子。 テレビを観ているのかも知れない。 美子にまったく気づいていない。 変態も帰宅途中なんだろうか。今は一九時過ぎ。 地下鉄は真駒内駅に向かっている。 美子は大通駅で乗った。 乗った時には気づかなかった。 発見したのはススキノ駅。 美子は地下鉄に乗るときには前から三輌目に決めていた。 変態から痴漢されたのが三輌目の車中だった。 それからは必ず三輌目に乗った。 その甲斐があった。 人は無意識に乗る車輌を決めてしまう。 中島公園駅を過ぎた。 アナンスが幌平橋駅を告げた。 変態がスマホをスーツの胸ポケットに入れた。 美子も幌平橋駅で降りる。 変態は幌平橋駅の近くに住んでいるに違いない。 絶対に確かめてやる。「ごめんなさい」を言わせてやる。 このチャンスを逃してなるものか。 幌平橋駅からは美子の家と学校までそう遠くない。                                 幌平橋駅で降りた乗客は少ない。 五名だった。 美子はさりげなく変態の後ろに付いた。 距離は一五メートル。 幌平橋駅は豊平川に隣接している。だからホームが深く掘られている。上ったり下りたりする感覚はビルの五階以上。急ぐと息が切れる。此処には人家が無い。中島公園の一角に設けられた駅。公園を抜け出さないと灯りも乏しい。 美子は気づかれないように後姿を凝視しなかった。 それでも発見した時に特徴を掴んだ。 細身の體。身長は一七五くらい。右手には黒い鞄。髪はツーブロック。 変態の黒の革靴の音が階段に響いていた。 美子はローファーの靴音を立てないようにつま先で階段を上った。 後ろには誰も居なかった。 一緒に降りた三名の乗客はエレベーターで地上に出るのだろう。 変態は二番出口から外に出た。 美子が見仰げる視界から消えた。 階段を駆け上がった。 リュックが左右に揺れた。 二番出口に立った。 変態の姿が消えていた。 変態が出口から外に出てから一〇秒も経っていない。                                 変態との距離は一五から二〇メートル。 突然消えた。…不思議だ。居ない者は居ない… 美子は出口に立ち周囲を見渡した。 やはり誰も居ない。気づかれたのだろうか。そんなはずは無い。 変態は気づいた素振りを見せなかった。 二番出口から外に出たなら一本道を進む他ない。 美子が通い慣れた道。 百メートル先にはコンビニが在る。 見喪うとは考えられない。 不可解に包まれた美子は俯いて歩みを進めた。 美子はもう一度後ろを振り返った。 人の気配が在った。 テニスコートの道沿いに立つアカナラの巨樹の陰に蠢く影が在った。 影からは美子に突き刺す視線。 三角の白い眼が光っていた。…これってナニ… 恐い。 白い三角が動いた。                                 ヤバイ。 気づかれていたんだ。 追っているのに待ち伏せされてしまった。 誰も居ない。 人家も無い。 此処は恐い。 三角の白い眼が追って来る。 美子はコンビニまで走った。 コンビニが安全を灯していた。 明るいと三角の白い眼は消えるんだ。 息を切らした美子はコンビニの雑誌が置かれている処に立った。 外が見える。 コンビニには客が居なかった。 美子は変態が通りかかるのを待った。 動悸が頭の芯を打っていた。 来た。 変態は何もなかったかのようにゆっくりと現れコンビニに入って来た。…ウソ。此処に居るなんて分からないはず… 変態は固まっている美子の前に立った。「僕の後をつけた訳を教えてもらおうか」「…」 美子に震えが走った。 …大丈夫。大丈夫。明るいから三角の眼が消えた… 此処に居る限り襲われない。 美子は変態の顔を見つめた。 意外だった。 変態は爽やか系。ツーブロックがけっこう似合っていた。痴漢された時は顔を覚えるのが精一杯だった。髪型よりも左の耳朶のホクロが決め手。 美子の震えと動悸が鎮まってきた。「私を覚えていないの」「…」「ひと月前に貴方に痴漢された。それで探していた」 変態は平然としていた。「私は警察に突き出そうと考えていない。でもそれは貴方次第」「…」                                 「私は貴方に謝って欲しいんだ」「えっ。…。此処で謝れば許してくれるのかい」「どうしようかな。それも貴方次第」  美子はポケットからスマホを取り出しフォトをタッチした。「私は仲美子。この近くの高校に通っている一年生。貴方は…」「僕は出間正志。市役所に勤めている」 美子はスマホの電源を切った。「正直に名乗ったから写真は止めた。でも名刺を下さい」「えっ。名刺をどうするの」「もう痴漢しない担保にする」 変態は財布から名刺を取り出し一枚を美子に渡した。『札幌市役本庁戸籍係主事』「あんた。嘘つきじゃないんだ。へ~え。名乗ったのと名刺が同じだ」「…」「なんで私に痴漢したの。何時もやっているの」「痴漢は初めてたっだ。君があまりにも可愛かったから勝手に手が伸びていったんだ。制服が無い高校生と直ぐに分かった。濃紺のダッフルコート。バーバリのマフラーとフレアスカート。紺の縦縞のリュックにキッテイがぶら下がっていた。今夜と同じ黒のローファー。髪を切ったんだね。あの時は赤いリボンのトップテールだった。艶リップも似合っていた。こんな娘と仲良くしたいぁ~と想った。でも叶わない。そしたらつい手が…」「なんだ。覚えていたんだ。だったら今夜の私に気づいていたんだ」「必ず僕の後をつけて来ると思っていた。そしてその通りになった」「そっかぁ~。あの時の不快から逃れたくて次の日に髪を切った」「ごめんなさい。許して下さい。もうしません」 変態は美子に正対して深々と頭を下げた。「分かった。私の望みは叶えられた。これで不快を忘れられる」 美子はスマホでタクシーを呼んだ。 タクシーが到着するまでの時間が長かった。 美子は無言。力を振り絞って変態を睨みつけていた。 変態は俯いて美子の睨みをまともに受けていた。 東屯田通りの自宅までは一キロも無い。 変態に付けられるのが嫌だった。早く変態から離れたかった。…先ずは花南に報告… 花南の部屋まではニキロ。 美子はタクシーの中から後ろを振り返った。 変態はコンビニを出てタクシーを見送っていた。 そして右手を大きく振り続けていた。 どうして。どうして。どうして手を振るの。アンタの変態を赤裸々にして身元までハッキリさせた、私に、どうして愛おしそうに手を振るの。変だ。変だ                                 から変態なんだ。変と云えばアッサリと自分の名前と身分を明かした。私に気づき逃げようと思えば幾らでも逃げられた情況。なのに私と接触したいが為に後を付けたように思う。そして名乗った。初めから警察に突き出されないと確信していたんだ。変態は公務員。痴漢が明らかになった時にはタダでは済まない。立場が逆なら、私なら、絶対に身分を明かさない。やっぱり変だ。腑に落ちない。私は名乗った。変態は戸籍係。私の名前を手掛かりに家を特定するのは難しくない。仲と云う姓はそう多くない。通っている高校も示唆した。でもこの辺りには高校が二校在る。でも拙かったかな。■(下)『犯罪者』を開始します。遠野花南に代わり仲美子の視点で描きました。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12を開いて下さい。


『母さん。美子が十六時から就職祝いしてくれるって。それでカレーを作った。美味しくできた。サラダは冷蔵庫。ご飯は十七時にタイマーをセット。健太と食べて下さい。健太用に四人分を作ったよ』とメール。『美子は良い友達だね。母さんも花南の就職祝いを買った。楽しんでらっしゃい』。返信が届いた。 働くまでの残り少なくなった図書館での時間を何に使うか決めかねていた。『中認』の試験は三年分がパソコンに取り込まれていた。三年目の問題では五教科で満点を取った。その時に…これで中学の勉強は終わった…と意識した。 何時かパソコンを買った時には自分で設定する。それで設定費用が浮く。その為に作ったパソコン用語事典もほぼ完成。基本知識に不安はない。 高校の勉強を始めようかと考えた。けれど高校の教科書は図書館に置かれていない。参考書なら在った。参考書は教科書が在って活きるもの。教科書を買うにはお金が足りない。働くまで待つしかない。とりあえず『高認』の試験問題を開いた。『高認』は九教科もある。マークシートは『中認』と同じ。美子が言っていた通りに五〇点が合格ラインだった。半分で良いのなら今でも何とかなりそう。来年に受験しようか…。でもそれで合格したとしても高校の勉強を終えたとは云えない。来年の受験はどうしよう…か。     「お待たせ」 榊陽大の声が背中から聞こえた。「なんか。背中が深刻だった」「ちょっと考えごと。高校の教科書を持っていないのに来年『高認』試験を受けようか、どうしようと考えてしまっていた」「そうなんだ。十六歳で受験できるんだ。合格したら翌年に大学受験も可能。俺が高三になる直前に花南が大学に合格したらスゴすぎる」「そんな風にはならない。やっぱ。高校の勉強を完了したと思えないと」「俺が使っていた高一の教科書はもう使わない。よかったら一式プレゼントする。花南。メモ書きが在るけれど使ってくれる…」「えっ。いいの。本当に~。ありがとう。使わせて下さい。助かります」「何をハシャいでいるの。可愛い笑顔を振りまいて。妬けるではないか」  美子が両腕を腰に当てて仁王立ち。 気づかなかった。 花南は『中認』の試験結果を美子に伝えた。伝え方がしどろもどろだった。 美子に見抜かれた。「あんた。思っていたことと違うことを喋ったな」 花南は無視して榊陽大に仲美子を紹介した。「誤魔化したな。まぁいいか。紹介してもらったし…」 美子はお洒落して来た。気合いが入っている。ダッフルコートは中学生の定番。濃紺は初めて見た。バーバリのマフラー。ダッフルコートの裾からバーバリのフレアスカートが覗いていた。そして焦げ茶の編み上げのハーフブーツ。似合っていた。おまけに艶リップまで。女子高校生のよう。「これからマックに行かないかい。マックならおごれる」                                                            榊陽大がとりなした。 マックでは三人とも『ビックマック』のセット。ポテトとコーラLを注文。 「花南。就職おめでとう」  三人はコーラで乾杯。「榊さん。初めて会ったばかりで失礼かも知れない。でも言わずにいられないから花南に頼み込んで会わせてもらった。榊陽大さん。あなた。花南を応援できる。守ってやれる。それができないなら認められない。花南は将来必ず凄いオンナになる。小っちゃい頃からトモダチしていた私はそう確信している。それまでのミチのりは遠い。試練も訪れる。だから私は応援しているんだ」 美子の言い方は焔だった。逃げを許さない美子の気迫の焔。「俺は応援する。守る。初めて花南を図書館で見たのは半年くらい前。何時も楽しそうに勉強していた。その姿を見て俺も奮い立った。中学に行っていないのは直ぐに分かった。その辺の事情が分からなくとも俺と似ていると想った。共通する何かを感じたんだ。それで我慢できなくなって声をかけた」「共通する何かってナニさ」と美子。「俺は養護施設で育てられた。両親は分からない。誰に聞いても分からない。恐らく捨て子。小三の時に今の父さんと母さんに引き取られた。それから七年。両親はとても俺を大切にしてくれる。何時か恩返しする」 時雨の匂いの源を知った。息が詰まった。見開いたままなのに、花南の眸から涙が溢れ、ひと筋ずつ、両頬を伝った。 陽大はあっち側の人と思っていた。でもこっち側だとは…。美子も大輔もあっち側。それでも小っちゃい頃からこっち側を気にかけてくれるトモダチ。矢野先生もそうだ。でも陽大はこっち側だった。こっち側の人間と巡り合ったのは初めて。それもタイプの相葉君似。花南には驚きよりも喜びが広がった。…こっち側の人間には何でも話せる。何でも分かち合える…「こんな話しを聞いてしまったら花南の他にもう一人応援しなければならない。言いたくないことを言わせてしまった。陽大さん。ゴメン。よ~く分かった」 美子が涙目で言った。  三人は無言で『ビックマック』をパクついた。■『どうせ死ぬなら恋してから(上)』の抜粋はその12で終了です。■明日からは『(下)の犯罪者』をアップします。10回を予定しています。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12をクリックして下さい。