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お届けする作品は『未来探検隊』の他三つです。四作品とも未発表。何れもワープロ原稿をワードの添付メールで送信。僕に送り先のメルアドが届き次第、直ちに送ります。スマホや他の携帯には送れても容量が大き過ぎて開けません。パソコンは大丈夫。ワードで圧縮せずに送るので今までの経験では問題なしでした。

現在の支援総額

18,000

1%

目標金額は1,000,000円

支援者数

4

募集終了まで残り

終了

このプロジェクトは、2021/04/05に募集を開始し、 4人の支援により 18,000円の資金を集め、 2021/06/04に募集を終了しました

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 花南は面接を終えると矢野先生に就職決定のショートメールを送った。『四月一日から伏見のスーパーマックスで働きます。ハンカチは先生にお会いできた時まで待って下さい。先生に会える日がくるように頑張ります』 返信が直ぐに届いた。『おめでとう。フレーフレー遠野。頑張れ頑張れ花南』 花南はこのショートメールを保存した    次に榊陽大に知らせた。『良かった。明日の十六時に図書館で逢おう。就職祝いをやらせて』『ありがとう。仲美子と一緒でイイ。紹介してと頼まれているんだ』『OK』   一生懸命に働いていれば特別な目で見られない。居心地は自分で作れる。意地悪な人がいるかも知れない。きっと一人はいる。でもそれは単に性格が悪いからだ。特別な目に繋がらない。だからイジメにならない。イジメは一人では完成しない。少なくとも二人以上。性格が悪い人は周囲からはじかれる。職場は学校ではない。みんな働く。退屈している暇などない。学校では働かないから退屈する奴が出てくる。退屈をまぎらわすひとつがイジメ。そんな奴はだいたい勉強できない。勉強でもスポーツでも目立てないから他で目立ち優越感を持とうとする。そんな奴は職場にいない。そんな最低な奴は職場が許さない。一生懸命に働いていればすべてを解決できる。 けれど職場でもイジメがあるかも知れない。テレビでは時々職場のイジメが映し出れる。学校と違って職場のイジメはイジメとは云わない。ハラスメント。大人には大人の解決手段があるのでは…。調べると慰謝料とか損害賠償請求が出てきた。やはり大人。やり方が違う。お金での解決なんだ。これらの請求は裁判を通してだ。裁判に勝てばお金が支払われる仕組みだ。もしハラスメントを受けたなら堂々と訴えよう。人間のクズ相手にためらう必要なし。 私には矢野先生が付いている。 花南は特別な目との闘いに終止符を打てた。そう想うと力が漲ってきた。…長かった。けれどこれで終わる。 花南は小六の修学旅行の時に特別な目を投げかけられた。「あんた。お小遣いはいくらら持ってきたの」と安達享子が聞いてきた。特別仲が良い子ではなかった。席が隣だったので親しくしていた。「五千円」「やっぱり。みんな。一万円だよ。セイカツホゴならしょうがないよね」 花南の背中に衝撃が走った。                                ビクンの余韻が背中に残っている。 どうして知っているのだろう。知っているのは美子と大輔だけ。二人は言ったりはしない。誰にも知られていないと今の今まで思っていた。一人が知るとみんなが知る。それが女の子だ。家に帰りたい。けれど一泊二日。ここは洞爺湖。山を越えてJRの洞爺駅まで歩く。ヒッチハイクできれば直ぐに駅に着く。五千円を持っている。列車で帰れる。でも突然帰ったら迷惑をかけてしまう。母さんが悲しむ。明日の夕方まで我慢。我慢。これは多分、試練なんだ。 お土産を何ひとつ買わなかった。お土産屋でお土産を買わない花南にクラスメイトの視線が集まった。次の日バスがサッポロに入った。学校まであとわずか。学校にはクラスメイトの母さんたちが迎えに群がっているに違いない。健太がお土産を期待して来ているかも。健太のお土産くらいは買った方が良かったかも知れない。でも五千円を一円たりとも使いたくなかった。母さんが働いた五千円。それをつまらない耳かきとか、フラッグとか、タオルとか、孫の手に使いたくない。お土産を買うのは義務ではない。買おうが買うまいが勝手。健太はお土産よりもガチャガチャを三回も奮発すれば喜んでくれる。 花南はバスの窓辺に頬杖をついて少しずつ記憶のある景色に変わってゆくのを眺めていた。もうすぐ夕方。藻岩山の南斜面に親子の鹿がいた。子どもは母                                親にジャレている。甘えている。母親が子どもを置いて走り出した。子どもは離されまいと追う。それでもどんどん離されて行く。母親が止まり振り返った。子どもが追いつくと母親はまた走り出した。…オッパイが欲しかったらここまでおいで…と言っているように見えた。 信号が変わった。 あの小鹿もそう遠くないうちに乳離れしてゆく。冬を越した来年には母親を追い越して行ける丈夫な脚を持つ。冬に敗けるな。頑張れ小鹿。 学校に着いた。健太は来ていなかった。良かった。クラスメイトは修学旅行を終えた達成感を迎えの母に伝えていた。花南は冴えない表情。それを健太に見られたくなかった。健太が見ると何かあったと気づく。気づかせるのも、それを払拭しようと話すのもわずらわしかった。 家に着くと使わなかった五千円を母に差し出した。 母は何も言わなかった。それを見ていた健太はお土産を催促しなかった。 翌日学校は修学旅行の代休。美子が午前中に家に来た。「どうしたの。血相変えて」「腹立って。腹立って。許せなくってさ」「美子がそんなに感情をむき出しにするのは初めてかな」「あんたに向かってセイカツホゴを言った安達享子さ。本人に確かめたんだ。どうして花南の家の事情を知ったのかって…。そしたら担任の先生が言ったって。言うはずがないでしょうと問い詰めた。担任の先生が事務室で『遠野の家は修学旅行の一括払いが無理かも。どうしたものか。厄介だな』と事務員に相談していたのを聞いたんだって。安達享子が届いた落とし物を事務室に取りに                                行った時だって。それでピンと来たのが生活保護。一括で払わなければ援助を受けられないのをアイツは知っていたんだ。知っていたとしてもピンときたとしてもみんなの前で花南に言う必要ある…‼…」「美子。ありがとう。教えてくれて。そんなことだろうと思っていた。隠していることは何時かバレる。そう思っていた。担任の先生の他に、事務員の人たちも、校長先生も教頭先生も知っている。その何処からか、何時かバレると思っていた。もうひとつ美子にありがとうを言わなくちゃ」「あんた。冷静なんだね。もうひとつのありがとうって…」「ハブられるくらいなら何でもない。何とも思わない訳ではないけれどそこからイジメに発展すると対抗しなければならない。反撃する。イジメる奴に思い知らせる。『ゴメンナサイ。もうしません』と泣いて謝るまでやる」「どうやって…」「暴力。イジメる奴は複数。そいつらに報復するのは暴力がイチバン。健太がイジメられた時によ~く分かった。痛い目に会わないと分からないから」「花南。今からイジメられた時の準備を考えているんだ」「受け身ではイジメはエスカレートする一方。その果ては自殺。わたしはイジメた奴を自殺まで追い込むつもり」「イジメた奴が自殺するなんて聞いたことがない」「だからやる価値がある。イジメた奴が自殺したと世間が知った時には学校でのイジメがなくなる。腹を括らなければわたしへのイジメもなくならない」「花南。そこまで思い詰めなくても私が守る。大輔も守ってくれる」「美子。それは甘い。二人が守ってくれるのは分かっている。でもね。イジメの現場に美子と大輔のどっちかが居ないと防げない。居ないのを見計らってイジメが始まる。二人ともクラスが違う。それに美子がわたしを守ろうとすれば今度は美子が女子からのターゲットになってしまう」「そうだよね。男子は女子には手を出さない。でも大輔は大丈夫だ。大輔をイジメる奴は現れない。そんな奴が現れたら大輔にさっさとぶん殴られる」「気づいた。イジメへの解決策のひとつが暴力だって」「私。何とも言えない」「美子は人間のクズを相手にしてはいけない。美子に気苦労や面倒をかけたくないんだ。それに暴力にまで腹を括るのは腹立たしいんだ。でもわたしを特別な目で見て、ハブり、イジメになってゆくのが手に取るように分かる」「私は花南を守る。それが長い闘いになったとしても…」「決めたんだ。明日から学校に行かない。登校拒否する。『暴力少女現る』っ                             て言われたくないから。中学も行かない。中学では入学時から生活保護をみんな知っている。小学校が違って知らない生徒も直ぐに知る。特別な目にさらされる毎日になる。学校は安心して過ごせる場所ではなくなった。何時特別な目が襲ってくるか分からない。特別な目はまとわりついて離れない。それも幾人もの両目が…。美子はわたしを守ろうとする。大輔も同じ。けれど特別な目は変わらない。クズ相手に面倒をかけたくないんだ。登校拒否が最善との結論に                                達したんだ。それがもうひとつのありがとうなんだ」「あんた。もの凄いことを言っている。中学に行かないでどうするの」「これから考える。先ずは六年生のこれからを考える。あとひと月で夏休み。夏休みが終わるまでに答えが出ると思う。きっとミチがあるはず」「ミチがあるなんて考えられない。私には無理。花南が登校拒否を始めてもトモダチでいるからね。大輔に言ってもイイ…」「助かる。大輔が心配しないように上手く言ってね」         「自信ないけれどやってみる」


 神代泉さんは予定通り一週間で退院。 ステージ1で抗癌剤治療は今後の様子を診て…になった。 退院の朝。氷空ゆめは若君と医大で待ち合わせた。 無事だったお祝いと順調な回復への願いを込めて。 神代泉さんのお母さんが寄り添っていた。「あなたが氷空ゆめさん。泉を助けてくれてありがとう」 神代泉さんは車椅子に乗せられ看護師さんに押されている。「私。もう大丈夫。独りで歩ける」と言って神代泉さんは廊下をスタスタと歩き始めた。一〇歩ほど歩くと振り返った。「氷空ゆめさん。若君。ありがとう。本当にありがとう。これで何の心配もなく『戦国時代』に戻れる」 呼んだタクシーが来るまでの間に神代泉さんは二度、深々と頭を下げた。白いネットキャップは無い。ショートの前髪が少し伸びて眉毛まで届いていた。彼女の笑顔から死相が消えている。赤ちゃんを宿す身体も維持できた。神代泉さんは姫に戻った。      二人が乗ったタクシーが見えなくなると若君が言った。「いささか話したき儀がござる。如何であろうか」「学校休んじゃった。時間はたっぷり」「拙者も同じく。裏参道に茶屋が在る。少し歩こう」                           若君と連れだって歩いている。デートしているみたい。 雪が散らついてきた。初雪だった。襟足に雪が入り込んできた。 氷空ゆめは濃紺のハーフコートの襟を立てた。遅れてはいけないと家を出る時に慌ててしまった。手袋を忘れた。リュックを探しても予備は無かった。コートのポケットに手を入れていても冷たい。 氷空ゆめは両手に息を吹きかけた。「大事ないか…」 若君はその両手を取り自分の頬に押し当てた。 氷空ゆめは若君の温もりで痺れそうになっていた指先の冷たさを忘れてしまった。若君と手を繋いだ。照れてしまった。でも嬉しい。 珈琲屋は二階が客席。 二階からは教会の庭が見渡せた。下見なのだろうか。一組のカップルが礼服姿の女性に案内されていた。カップルは幸せそうだった。幸せそうを眺め、モーニングを食べ、味自慢のキリマンジャロの芳ばしい香りに包まれていると、のどかな心持ちになる。若君も多分同じ。表情にも背筋にも何ひとつ険しさが無かった。「これで『戦国時代』を続けられる。礼を申す」 若君は椅子に座った姿勢を正し頭を下げた。「わたし。若君に助けられた。ちょっとだけお返しできたかも…」「倍返しだ。話しとは『Under一八』。すべてを読んだ。ゆめ殿と悠久遥殿の熱が伝わってきた。それとサイトの作り手の仲美子殿のコメントも分かり易くて良い」「一〇の課題を考えた。でもまだ三つ。現在進行形なのです」「感想を申して良いか…」「お願いします。わたし若君の感想をイチバン聞きたかったんだ」「ゆめ殿は日本人を変えられると想い考えておる」「変えたい。変えなければと考え始めた」「拙者もそう想いたいのだが日本人を考えると絶望に陥る」 若君は深い嘆息をついた。「なんか変。何時もの若君と違う。『戦国時代』の若君じゃない」「申して良いか…」「ぜんぜんOK」 若君はコップの水を一気に飲みほした。「日本人は今を変えたいとは思っていない。誰も考えてはいない。様々な課題や問題が横たわっていたとしても、解決しなければならぬ課題や問題が山積していたとしても、今在る中で生きる途を探し見つけ出す。これが日本人の自律と自発。そして共存。原発が在るなら共存を考える。日本人は福島原発のメルトダウン以降も共存を模索している。廃炉や高レベル廃棄物の恒久処理方法が見つけられなくともそのうち何とかなるだろうと楽観。しかし高レベル廃棄物処分施設が自分の暮らす地域に建設されるとなれば決して認めない。それでも何とかするだろうと原発再稼働を認めている。再稼働には安全が絶対条件。福島のメルトダウン以降に作られた原子力規制委員会は各電力会社と密通して安全神話を再び作ろうと舵を切った。政府も各電力会社も時間を稼ごうと試みている。再稼働方針は廃炉の方法と高レベル廃棄物の最終処理施設場所が見つかるまでの時間稼ぎ。今は二酸化炭素を出さないと訴えておる。懲りないのも日本人。未だに原子力の電気は安いがまかり通っている。こうして全国に四二基ある原子力発電所の何処かで再びメルトダウンが起こるまで原子力発電は続けられる。原爆が投下されるまで戦争を止められなかった日本人。脳が欠損したかつての日本人と同じ道を歩んでいる。今は原爆が長崎に落ちるのを待っているのと同じだ」「わたし。日本人の脳が欠損しているとは考えてもみなかった」「拙者は突き詰めて考えると欠損に行き着いてしまった」「若君の言う通りなら、日本人を変えるには、脳の欠損を何とかして埋めなければならない」「それは容易くない。著しく困難。いや違うな。無理だ」「それは。それは。やってみなければ分からないじゃない…‼…」「ゆめ殿ならそう言うと思っていた。日本人は自分で考え、行動する遺伝子を持っていない。反骨精神の持ち主は滅多に居ない。反骨は社会から歓迎されない。そればかりか社会から疎まれる。もの騒ぎの種として扱われ時には村八分に。これも脳の欠損を助長させる。欠損を違う言葉に置き換えると…空っぽ…」「そうかなぁ。それでは何をやっても無意味無駄になってしまう」「拙者は無駄と考えておる。日本人は誰も社会運動を欲していない。望んでもいない。政は政治家の仕事と思っておる。思っていても政治家を尊敬していない。社会運動の訴えを聞く側は自分で考えなければならぬ。それが疎ましい。日本人は自分で考えるのが嫌なんだ。戦国時代では嫌と言っていられない。自分で考え判断して行動せねばならぬ。命が懸かっておる。領主は戦さに敗れたなら死すか落ちるかのふたつにひとつ。下克上の下で地侍から領主に成り上がっても世代交代は世襲制。三代目になると領主の器とは思えない、たわけた者も現れてしまう。領民の見限りには逃散もある。戦さになっても足軽として戦さ場に出ない。出たとしても直ぐに逃げる。領主は領民の支持なくして成り立たない」「わたしは無意味無駄とは思っていない」「拙者は無意味無駄に命を賭けられない」「だったらわたしが無意味などないと若君に納得してもらう」「そうだな。納得したいものだ。もう少し続ける。良いか…」「ぜんぜんOK。聞きながら考える」                           「ゆめ殿のやってみなければ分からないは一理ある。一理あるが、ゆめ殿はやってみれば何とかなると思っている。何かしらの良い結果をイメージしている。やってみて全然ダメとはひとつも考えてない。ここが最大の問題点。戦国ではそうはゆかない。やってみるとは仕掛ける戦さ。やってみてダメなら領主は首を刎ねられ領地を奪われる。分析して勝てる戦さになるまで力を蓄え我慢する。反して攻め込まれた時には応戦しなければならぬ。やってみるではない。やらなければならぬ戦さ。戦さとは命の遣り取り。ここでも敗れると同じ結果が待っている。そうならないよう領主は備える。備えとは蓄財と領民からの信頼。足軽の訓練も新しい武器の開発も重要だ。そして外交と情報網の整備」


 机を並べて勉強するのは楽しい。困ったことがひとつだけ起きた。勉強していても勉強に集中できていたかは疑わしい。それにお喋りばかり。 隣の人に注意される始末。そんな時には机に筆記用具やテキストを置いて一Fロビーに避難した。これは席取りの反則。 花南は反則を無視して階段を降りた。今日は浪人生が少ない。 お喋りを止めたくなかった。話したいことが次々に浮かんでくる。「高校ってどんな処。中学と何が変わった…」「勉強できない奴は大勢いるが馬鹿はいない。イジメが無い。喧嘩はたまにある。でもそれはイジメとは無関係。白昼堂々の男同士の対マン」 「イジメが無いんだ」「他の高校は分からないけれど俺の高校では無い。散々中学でのイジメを見てきたから愛想をつかしているんだ。イジメる奴もイジメられる奴も馬鹿だってみんな思っている。そんな奴が出てきたら双方がハブられる。受け狙いのイジメる奴とイジメられる奴のコンビが居てけっこう面白い。奴らにとっては学校がネタ探しの場所。教師ネタが笑いを取る。学校はネタの宝庫だそうだ」「陽大の高校は超進学校だからかな~」「あんまり関係ないと思う。退屈している奴が居ないんだ。勉強できない奴は勉強しないからだ。だからと云って馬鹿ではない」「どうして勉強しないの…。せっかく難関の高校に合格したのに…」「好きなことに夢中になっているんだ」「例えば…」「野球部はめっちゃ弱い。でも一年生のエースはめげずに今年中に一四〇キロを投げると言って早朝からトレーニング室で独り筋トレに励んでいる。ふたつの弁当を午前中に完食。授業中でもハンドグリップを手放さない。授業が終わると体育館でダッシュ。陸上部よりも早い。陸上部はインターハイの地区予選リレーに借りると決めている。牛乳ばかり飲んでいる。一日二ℓも」「弟は野球少年。聞かせてやりたい。きっと目をキラキラさせる」「他にも不思議な奴が多い」「聞かせて。聞かせて」「ストリーテラーになると言って一日中コンテンツを考えていて思いついたら授業中でもお構いなしにスケッチしている。ノートにも教科書にもメモ書きがびっしり。カメラに没頭していて眼球が飛び出ている奴。世の中をアッと驚かせる動画を創ると意気込んでいる奴。一日中ラップを唄っている奴。これは女子だけど、カラオケ選手権優勝を目指して、午後になると代返を頼んで、しょっちゅう消える。平日のカラオケはタダみないな料金だからだってさ。休み時間になるとギターを抱える奴。トランペットのマウスピースを胸ポケットに仕舞い込んでいる奴。こいつのブーイングは大迫力。俺はゴッホになると言って美術室に泊まり込む奴。宇宙を表わす数式は美しくないと間違いだと言って先生を困らせ、自分で考えた数式を黒板に書いた奴。ガロアに傾注してるあいつは天才だ。地学教室で石や隕石の標本を見つめてトロ~ンとしている奴。春と秋深しになると縄文遺跡を巡って学校に来ない奴。どうして春と秋深しなんだと尋ねたら、雑草が遺跡を邪魔しないから、と答えた。俺は『な~るほど』。宮澤賢治は近代以降の日本人が喪った精神を取り戻そうとする古代人と研究している奴。声楽志望のぽっちゃり女子。彼女のソプラノは教室の窓ガラスを震わせ俺の耳を塞いだ。あっ。もう一人居た。ピアノ弾きの女子。俺の教室は音楽室の隣なんだ。授業が始まっても音楽室からショパンのノクターンが微かに聞こえてくる。実に妙な気分。担任も彼女を咎めない。担任は彼らや彼女たちの夢の途中を時々尋ねる。その答えを楽しみにしているみたい」「面白そう。高校も悪くない。ガロアって誰…」「ガロアは後で。俺のクラスだけでもこんな連中が居る。確かに毎日が面白い。ひとつことに夢中になっている奴らを見ているのは楽しいし応援したくなる」「そ~だよね」「俺にはそれが無い。だから地味に勉強している」「夢中になれるものが無いってこと」「そう。花南と同じさ」 花南はドキッとした。 夢と目標は違う。夢中になっていると目標が見えてくる。目標が向こうから手を差し伸べてくる。夢中とは夢の中でも好きにまっしぐら。夢中にならない目標は好きの追及ではない。今まで花南は必要と考えたひとつひとつを目標に据えた。好きに夢中になるとは遠い世界のように想えた。「両親はお前の好きなことをやれば良いと言ってくれる。母親までも私たちはそれを応援すると言う。それも嬉しそうに。でも俺には好きが無い」「陽大はきっと見つける。好きが勝手に陽大ににじり寄ってくる。クラスの面白そうな連中に囲まれて刺激をこれでもかってもらっているじゃない。好きに夢中になるって気づいたらそうなっている状態。考えて創り出すものじゃない。だから強い。好きに包み込まれていない今は勉強するのがイチバン。包み込まれた時にはきっと勉強が役に立つ。それで良いじゃん」「ときどき想うことがあるんだ」「ナニ」「両親は俺が好きに夢中になって、のめりこんで、勉強を放り出してしまう。それにハラハラドキドキしたいのかもって。もの凄いプレシャ~」「ご両親の職業は…」「二人とも公務員」「そうか。ご両親の期待を一身に背負っているんだ」「でもな~。二人とも無理強いしないんだ」「立派だね。ご両親の期待は期待。陽大は陽大。無理はダメ。続かない。壊れる。わたしは今日を生きるのに精一杯だった。最近はそれが財産と思えるようになった。だって生き抜く力は誰にも敗けないもの」「花南の苦労が分からない俺は世間知らずだ」「わたしも世間が分かっている訳ではないよ。家と近所と小学校しか知らないもの。そんな狭い範囲でわたしなりに今を乗り超えてきただけ」 花南には楽しみがひとつ増えた。 今日から楽しみにする。 わたしが夢中になる好きとの出逢いを。 今まで考えもしなかった好きとの出逢い。「イヤなこともあるんだ」「…」「今年になってから三回。ストーカーに付け回された。考えてみれば一週間に一度ずつ。それも金曜日ばっか。前はバレンタインディだったからそろそろ一ケ月。もう付け回されないと思いたいけれどそうはゆかない。必ず付け回され                                る。ストーカーは簡単に諦めない。目的を達成するまでチャンスを窺う」「心当たりはあるの…」「ある。四人のうちの一人か、全員か分からない」 花南は心当たりの四人の特徴を陽大に告げた。「分かった。花南を守れないなら男を止める」 二つのドアの開閉で寒気が吹き込んでくる一Fロビー。上気しているのは顔と頭だけ。花南の身体は冷えきってしまった。  花南はパン屋への就職を諦めた。家から近過ぎる。それに給料が時給。 …これではパートと変わらない… 花南はスーパーの履歴書に中学卒業見込みと書いた。そう書かなければ採用されない。面接すら受けられない。嘘をつかないと仕事に就けない、思い余って書いてしまった。バレない目算が背中を押した。中学を卒業していない人なんか居ない。それが世間の常識。中学を卒業したか、どうかなんて、誰も調べない。でもバレないためには用心が大切。知っている顔と出くわさないのがすべて。顔見知りは中学校への登校拒否を知っている。最も油断できないのが小学校の同学年の子供たち。次に近所のオバさんたち。要警戒は民生委員。このオバさんは何処にでも顔を出しそう。決して就職先を知られてはならない。…嘘も方便… 花南は都合の良いことわざを思い浮かべた。こうでもしないと自分の未来が拓けない。納得させようと試みた。けれども納得させられなかった。自分は嘘つきではない。一度も嘘をついたことがないかと、問うたなら、在りだ。でもそれは他愛のない嘘。健太と母に心配かけないために。 今回のは違う。喋りの嘘ではない。文字で履歴書に書いた。記録はズ~ッと残る。花南は自分をさいなむ心を振り払おうと力を使った。もしバレたらその時はその時と潔く諦めよう。それでもわだかまりは消えなかった。『中認』に合格すれば何もなかったことになる。それまでの辛抱。そう気持ちを切りかえた。花南には生活保護からの脱出と中学卒業が壁に思えた。働けたなら生活保護から離れられる。『中認』を取れば卒業していなくとも堂々としていられる。『中認』は一〇月。それまでバレなければ何とかなる。  三月一〇日の面接はスーパーの店長。花南は手にしていた求人広告紙を開き「『年齢不問・未経験者歓迎』を見て、ここで働きたいと思って来ました」。 履歴書を差し出した。 店長は履歴書に目を通してから「社員に中卒はいるけれど新卒は初めてだ」と言った。それから仕事の内容に入った。「品出し。賞味期限切れの日配品の回収。在庫管理。発注。値引き商品の選別と値札貼り。贈答品の発送。店内の掃除。レジ打ちは慣れてから。労働条件は求人広告紙に書いてある通り。書いていないところは労働基準法やその他の関連する法律を守っている。君を夜の八時以降は働かせられない。これは社内規                                定。君は何が得意ですか…」「はい。パソコンと暗算です。小っちゃい頃から母に算盤を習っていました」「ほう。それは頼もしい。お金の管理はレジが担っているけれどそうではない計算は至る処で必要になる。ワードとエクセルを使いこなせますか」「大丈夫だと思います。働くにはワードとエクセルができないとダメと思い沢山練習しました」「君はパソコンを持っているんですね」「いいえ。就職が決まったら買おうと思っています」                                「では家のパソコンで練習したんだ」「家にもパソコンがなくて中央図書館のパソコンを借りました」「そうですか。君は努力家だ。パートのおばさんたちはパソコンを使えない。中には触ったこともない人も多い。若い人でもパソコン苦手が多い。ところで君はパート希望なのか、それとも正社員を希望しているのですか」「正社員です」                             「そうですか。最初の三ケ月間は試用期間。正社員への登用はそれからの判断。判断するのは私と本社の人事部の担当者です。試用期間とは分かり易く言うなら見習い期間。こうしましょう。直ぐに働いて慣れてもらいたいのは山々だけれど四月一日まで待たないと十五歳にならない。区切りの良い四月一日から朝の八時に出社して下さい。社員の通用口から店に入って下さい。場所は後で教えます。新人教育係が居りますのでその方に付いて下さい。制服は貸与します。それと正社員希望者は入社時から社会労働保険に加入します。保険料は会社と折半。手取りは少なくなるけれど構わないですね」「はい」 花南は即日採用された。 正社員時の初任給は十七万二千円と告げられた。母よりも七万円も多い。 正社員にこだわったのは労働条件だった。退職金と賞与はパートに適用されない。見習い期間の間はパートと同じ時給。いわゆる日給月給。正社員は月給。この違いは大きい。責任は大きくなるけれどシッカリと働くなら問題なし。パートでもシッカリ働くのだから正社員の方が良いに決まっている。 社会保険に加入すると生活保護は受けられなくなる。社会保険とは厚生年金保険と健康保険。だから母はズ~ッとパート。国民年金は免除。健康保険は医療チケットが区役所から送られてくる。花南は社会労働保険加入が一人前の証と思えた。労働保険とは雇用保険と労働災害保険。このくらい知っておくのは労働者の常識。常識を知れば労働者は守られていると気づいた。 矢野先生のお陰で店長の労働基準法にたじろがなかった。 試用期間の意味も知っていた。第二五条に何が書かれていると問われたら困るけれど、最初から最後まで何度も読み、理解しようとパソコンで格闘した。賞与と退職金の定めはない。…と云うことは労働基準法では支払わなくとも良いことになる。だからパートには適用されない。これは大発見だった。■4/12にリターンを見直しました。4/12をクリックして見て下さい。


 その夜。氷空ゆめは神代泉の予知夢を試みた。 姫の寂し気な幸の薄さが離れなかった。 前回は木村だった。学校を辞めるのが不安だった。木村が居なくなると学校で不可解や疑問をぶつけられる人が居なくなる。 氷空ゆめは、衣装を整え、呪文を唱えて、眠った。                            七日後。木村は学校に居た。辞めてはいなかった。 その日、教員室に向かっていると廊下でバッタリ。「先生。学校辞めないで。わたしたちが卒業するまで辞めないで」「なんだ。突然」「大学院に行っても辞めないで」「おまえ。そんな風に想っていたのか」                         「私は辞めずに学問する。そのために校長から許可を取ったんだ」                                     「良かった。よかった」「仲美子にもそう伝えてくれ」「はい。伝えます」「そんなことよりもおまえたちは受験先を決めたのか」「二人とも北大に行きます。わたし。入れるか自信ないけど…」「そうか。そうか。決めたのか。これは楽しみだ。仲美子にふたつを急がず頑張れ。応援していると伝えて欲しい」 木村はそう言うと歩き始めた。 四三歳の後ろ姿が凛々しかった。 神代泉さんはベットに横たわっていた。病院服を着て横たわっている。個室のベットだった。周囲には誰も居ない。やせ細り、顔が青白く、天井を見ている眼は虚ろ。瞳は窪んでいた。寂しさを通り越している。白いネットのキャップを被っている。無機質に近い表情。点滴が三本。病室には様々な機械と器具が置かれている。 これって集中治療室だ。もしかして彼女は、姫は、此処で死んでしまうの…。氷空ゆめは夢の中でパニックに陥った。 眼が醒めた。 七日先の予知夢。七日先でも姫は生きていた。でも病んでいた。 幸が薄そうと感じたのは若君とつき合いが上手くゆかない寂しさではない。そんな浮ついた恋の顛末ではない。薄いと感じたのは死相。神代泉さんに死相。三日前のコンサートにそれが現れていたんだ。今からなら間に合うかも。病気を治すには早期発見と治療。 グズグズしていられない。 氷空ゆめは放課後を待たず西高に向かった。授業が終わってからだと若君が学校から居なくなってしまう。仲美子から自転車を借りて長い坂を下った。この坂は、始まりから、学校の駐輪場まで、上り切れない。誰もが途中で降りて自転車を押す。下りは爆走。爽快。でも寒い。手袋を付けていても両手の感覚が無くなる。 西高に着いた。下校が始まっていた。氷空ゆめは三年生らしき女子に学校名と名前を告げ石丸永遠の所在を尋ねた。「若君なら多分バスケの練習。ちょっと待っていて。体育館に行って呼んでくる」。                            助かった。初めての学校では居所を知らされても直ぐには辿り着けない。若君が首からタオルを下げて走って来るのが見えた。 バスケの練習着。長パンと半袖のシャツ。胸には『SAPPORO NISHI』。あっと言う間に若君はわたしの前に立っていた。「如何した」「ゴメン。バスケ部だって知らなくて。大切な話しがあるの」「話しとは‥」 氷空ゆめはわたしには予知の能力がある。夢に現れた先は七日後と伝えた。「信じてもらえないかも知れないけれど昨夜、姫の夢を観て…」。夢を再現した。「このままだと神代泉さんは死んでしまう。今からだと間に合う」「あい分かった。昨夜のライヴへの参入。かたじけない。予知夢もありがとう。この始末。拙者が預かる。稽古がある。これにて」 若君は軽い会釈のあと走り去ってしまった。 若君はステージからわたしを見つけてくれてたんだ。良かった。もう少し話したかったのに…。昨夜のライヴの感想を言いたかったのに…。わたしがタオルを回した数を伝えたかったのに…。若君のメルアドを教えて欲しかったのに…。 家に戻り、身体を湯で温め、空腹を満たす御飯の間も、氷空ゆめは、健康な身体が壊れ、死す、病いを、考え続けた。ネットキャップを被っているから頭の病なのかも…。                                   母が「どうしたの。ボ~ッとしている。風邪なの。違うな。何時もと変わらない食欲だし。あっ。予知夢を観たんだ。観た時には何時もボ~ッとして御飯を沢山食べる」。「心配なんだ」 氷空ゆめは、昨夜のライヴの時に観た、神代泉の幸の薄さと、ベットでの死相を話した。「姉ちゃん。神代泉さんを助けようと…」「そう」「ゆめ。これは一刻を争う」と母。 家族は、みんな、予知夢を信じていた。七日先の予知の確かさを信じていた。幼稚園での号泣以来、何度も繰り返された予知夢がもたらした結果を共有していた。 小学校の卒業式の前日は新月だった。                                      その夜、氷空ゆめは父の夢を観た。                          わたしは黄色の袴に水色の着物。着物には大きな鍵型の模様が七つ。七つの彩は虹色。落ち着いた派手。母とレンタルショップで下見していた時に見つけた。式での父は何時もの通りわたしだけを見つめていた。母は撮影。雪が舞っていた。ぼたん雪だった。何処かで涙を堪えている父。その後に映し出された父は病院の個室に横たわっていた。入り口に『氷空光』のプレート。左足にはギブス。 卒業式が終わると予知夢を父に告げた。父は信じなかった。それから六日後、父は会社の階段を踏み外し転倒。左膝を複雑骨折。「チチは書類の山を抱え急いで階段を降りた。書類の何枚かが飛んだ。まだ浮いている書類を取ろうとして前が見えないのにジャンプ。着地に失敗。階段を転げ落ちた。書類の全てが飛び散った。卒業式の後に自分なりの区切りと想い出を残そうと句をひとつ創った。『                           小六の 吾子の黄袴 なみだ雪』。ゆめの想い出がひとつ増えて残った。満足だった。これからは中学生。気持ちの切り替えが上手くできなかった。ゆめの予知夢を信じなかったチチが愚かだった」 これが父の述懐と反省だった。                                    『はるかクリニック』に相談すべしと母からのアドバイス。氷空ゆめは、和花(のどか)お母さんに相談は、良い考えだと思った。小さい頃から美子ともども世話になってきた。母は問診の達人と言っていた。相談するにしても神代泉を連れて行かなければならない。それには本人の同意が必要。拒まれたら説得する他なし。見ず知らずのわたしの説得を受け入れてくれるだろうか。まず無理。「この始末、拙者が預かる」と若君は言った。男子が死に至る病への対処を女子に促したところで、その女子は応じないと思う。わたしなら笑い飛ばしてしまう。「うん」とは絶対に言わない。ここはわたしがやらなくては…。若君にわたしの決心を伝えてわたしが連れて行かなければ…。その前に和花お母さんさんに電話。ボヤボヤしてはいられない。遥のお母さんはわたしの予知夢を幼稚園の時から信じてくれている。連れて行くなら何とかなる。何とかしてくれる。 ベットに横たわり死相に憑りつかれてる神代泉さん。直に死す。これが彼女の宿命。十八歳の女子の定め。違う。こんなの定めなんかじゃない。病気なら治せる。この先、受験に失敗するかも知れない。やりたいことが上手くゆかず挫折するかも知れない。失恋するかも知れない。それらは辛い。でも大人になって歳を重ねたズーッと先に振り返ると楽しい想い出のひとつひとつになる。十八歳の女子には辛いことよりも楽しいことが待っている。それがサダメ。                                  「ゆめです。ご無沙汰しています。ぜひ聞いて欲しくて」「元気そうじゃない。…ゆめちゃん。声がこわばっているよ」                       「そうなんです。大変なんです。お願いします」 氷空ゆめは予知夢のあらましを話した。 白いネットキャップが死相を際立たせていると力を込めた。「絶対、助けたいんです。力を貸して下さい」「髪の毛が抜けてしまったのか、髪の毛を剃り落としたのか、ネットキャップはふたつにひとつ。抜けたのなら抗癌剤治療。剃り落としたとなれば脳腫瘍の手術のため。何時でも構わないからその女の子を連れて来て。検査の準備があるから電話を忘れないでね」 氷空ゆめから血の気が引いた。顔が引き攣った。 癌。或いは脳腫瘍。どっちにしても恐い病名。死が間近。「和花お母さん。ありがとう。何としてでも連れて行きます」 若君に癌か脳腫瘍を知らせなければ…。 氷空ゆめは部屋に戻り石丸明さんの名刺を探し出した。 メールよりも今は電話。電話の方が早い。 立ち上げたままになっていたパソコンにメールが届いていた。—氷空ゆめさま。 親父からゆめ殿のメルアドを教えてもらいました。「氷空ゆめさんを助けたんだってな」と不意に言われました。「なぜ。親父が知っているのか」                                      すると『未来探検隊Under一八』を知らされた。 それでネットの『Under一八』を開いた。 ボリュームがあるので時間を作って読み込みます。感想はその後で。親父たちの『Over六九』は当然知っています。その感想も後ほど。ゆめ殿がこんなに近くに居るとは想いもよらなかった。 姫にゆめ殿の予知夢を話した。 彼女は「ふ~ん。そう」。黙り込んでしまった。表情が重く、暗かった。思い当たるふしが何かしら在るように想えた。それで困った。男は、これ以上踏み込めない、と思った。 ゆめ殿の力が欲しい。                                       石丸永遠— やったぁ~。若君からメールが届いていた。電話するにはナイスタイミング。若君はわたしに悪印象を持っていない。嬉しかった。今はそれどころではない。早速電話。良かった。若君は居た。 氷空ゆめは『はるかクリニック』のふたつの見立てを言った。「わたしを神代泉さんに会わせて」「あい分かった」「はい。若君のを登録します」 次の日の昼休み。若君からの電話が鳴った。 ガストで一六時三〇分に神代泉さんと待ち合わせ。 若君が設定してくれた。 神代泉さんが不安そうに現れた。「余計なお節介と思われるかも知れないけれどわたしは知ってしまった。知ったのに知らないふりはできないから。何かしら思い当たる体調の変化があるの…」「若君と親しいのね。ちょっと妬ける」「まだ親しくなっていない。わたしは若君に助けられた。変なオッサンの尾行を蹴散らしてくれた。今度は姫と若君を助けたい。姫不在の『戦国時代』は考えられないから」 神代泉さんの体調の変化は下りものだった。生理が終わっても続く下りもの。一ケ月前から続いていた。今月の生理は無かった。気味が悪いのと少し熱っぽい毎日。氷空ゆめは『はるかクリニック』に「これから一緒に行きます」と電話。 神代泉さんはグズグズ。「健康保険証を持って来ていない」「それは後からで構わない」と氷空ゆめは神代泉の手を引いた。「検査の準備があるからと」と和花お母さんは言っていたけれど問診だけだった。子宮頸癌の疑い。明朝の一番で医大病院で精密検査の予約を取り付けてくれた。 和花お母さんは医大の卒業生。顔を利かせてくれたんだと思った。 氷空ゆめは医大の待合室で八時半に神代泉と待ち合わせた。今は一緒に居たい。独りは心細い。わたしでも居ないよりも居た方がマシ。精密検査の無事を祈った。三日後に判明する無事を祈った。 子宮頸癌だった。 問診の通りだった。手術が必要。入院の翌日に手術。「内視鏡による施術では癌細胞を取り除けない。レーザーないしは高周波メスで子宮頚部の癌を切り取る」と和花お母さん。「ゆめちゃん。偉い。一人の命を救った。転移を防ぐ抗癌剤を投与する。でも髪の毛が全部抜け落ちるほど強くない。抗癌剤の副作用の状態次第だけれど早ければ一週間で退院できる」 早期発見が朗報だった。 あと三週間も遅れると子宮摘出手術。転移の可能性は大。 姫が白いキャップを被っていたのは髪の毛が抜けるからなんだ。 ゆめがクリニックにお礼と退院の報告に行くと「見立てが間違ってなくて良かった」と言った和花お母さんの表情が怪訝に。「子宮頸癌は性交による発症が圧倒的に多いの。ゆめちゃん。あの娘が付き合っている男子に心当たりある…?」 ゆめは答えられなかった。 和花お母さんに答えられなかったけれどゆめに確信が宿った。…若君は姫と付き合ってはいない。若君は姫とエッチしていない。それ位はわたしでも分かる。姫はわたしの知らない誰かと付き合っている。きっと若君も知らない奴だ。そいつと性交していたんだ…■4/12にリターンを考えました。アップしています。


 ひとつだけ気懸かりが在った。 榊陽大から時雨の匂いが漂って来た。…どうしてだろう。わたしの気懸かりが的を得ていたら、そう遠くないうちに分かるはず。今は気にしない。気にしてもしょうがない… 花南は書き写した『中認』の試験問題をリュックに入れて図書館を出た。 出る時に榊陽大にショートメールを送った。『これから家に戻ります。今日はありがとう』 返信は直ぐに来なかった。                         家の玄関に入った時に着信メールの知らせ。『僕こそ。今日はありがとう。これからヨロシク』 花南は「きゃ~」を思い切り叫んだ。  翌日『中認』の試験問題を解いていると後ろから肩を叩かれた。 美子だった。「花南。変わらない図書館通いだね。パソコンに向かって何やっているの。後姿から一心不乱のオーラが出ていた」。「こんな時間に美子が現れるなんて。期末テストが終わったから…」 この日の図書館は何時ものように静かだった。けれど高校生の男女が多かった。何やら華やいでいた。テストが終わった安堵感。花南は到着すると直ぐに榊陽大の姿を探した。来ていない。代わりに美子が登場。「これで後は高校入試と卒業式を待つだけ」「美子。これを見て。『中認』の試験問題。五教科あるんだ」「へぇ~。『中認』って中学卒業認定試験のこと…」「そうだよ。わたしは中学の卒業証書をもらえないから。十五歳になったら受験できる。毎年の試験は一〇月。四月一日が誕生日だから受験できる」                                「そっか~。花南の誕生日は嘘みたいな日だよね」「そのおかげで今年の一〇月に中卒資格を持てるんだ」「『中認』は知らなかった。花南。何処で知ったの…」「知らないのも無理ない。美子には関係ないから。NHK学園高等学校が気になって問い合わせた。中学校の卒業証書が無くても受験できるかって。そしたらできない。かわりに『中認』を教えてくれたんだ。パソコンで調べると試験問題と解答が載っていた。これが高校受験の内申書になると書かれていた。一〇〇点中五〇点以上取れば合格とも。全然難しくなかった。でも試験慣れしていなくて四〇分もあるのに気持ちが急いてしまって早トチリで満点は無理だった。わたし。満点を狙っているんだ。そしたら中学の勉強を卒業できる」「花南の言い方だと九〇点以上は取ったんだ。凄いね」 「なんも凄くない。美子なら楽々満点取る」「…と言うことは大学受験の時のように落とす為の試験ではないんだ。受からせようとする試験なんだ。ところでさ。『大検』が無くなったの知っている。それを知らせに来たんだ」「えっ。無いの。どうしてさ…」「安心しな。制度が変わって今は『高認』と呼ばれている。大検よりも難しくないみたい。あんたにとって朗報は十六歳になれば試験を受けられる」「そうなんだ。図書館のパソコンで調べてみる。美子。ありがとう」「あんた。『高認』を受けるんでしょう」 「『中認』の後に受ける。『高認』も受からす試験だったら助かるな」「多分、受からす試験だよ。『大検』は難しかったと言うウワサ。それで、それを変えたんだ。ところであんた十六歳で『高認』に合格したら十七歳で大学を受験しようと企んでいるのかい」「そこまでは考えていない。高校の勉強に手が付いていない。わたしは恵まれていると思う。中学を卒業していなくと『中認』があった。そして『高認』を受けられる。受かったらみんなよりも一年早く大学を受験できる」「あんたが恵まれているなんて言うと私。困ってしまう。あんたらしいけど。大学は何処を狙っているの…」「決めていない。ヨシ。これで高校の勉強が終わったと思うまで決めない」「でも。あんた。Eテレの高校講座を欠かさず観ているじゃない。わたしも時々観る。平日の十四時からだから、ほんとうに時々しか観られない。一日約二時間の講座は勉強になる。それを中一の時から続けているから『中認』が簡単と言えるんだ。わたしはのんびりと高校へ行く。あんたのマネはできないもの。けれど応援しているからそれを忘れたら怒るよ」「美子。ありがとう」「花南。今日は何時もとちょっと違う。何か良いことがあったの…」「ナニが」       「お洒落している。ウールの赤と黒のタータンチェックのキュロットは初めて見た。トレーナーは白地に水色と黄色のスヌーピー。ストッキングは黒。少し大人びている。靴も黒のローファー。何時もはスニーカーじゃない。とっても似合っていて可愛い。それにさりげなく薄いピンクの口紅も。これは異常だ」「別に。何もないよ」「嘘。ウソ。うそ。白状しないとトモダチやめる」「困ったな。どうしても言わないとイケナイ」「ダメ」「美子。笑わないと約束してくれる」「する」 花南は矢野先生の二万円を伝えた。「それはそれは良かったね。でもそれだけでないでしょう。それだけだったらお洒落する必要がないもの。ほら。思い切って吐きなさい。笑わないから」 花南は観念した。 誰にも告げずにいようと思っていた「榊陽大から声をかけられ嬉しかった」を俯いて言った。玉子サンドウィッチを「美味しい」と言ってくれた。最後に「携帯番号を交換」。「やっぱり。良いね。羨ましいな。恋だね。花南の青春が始まったんだ」「内緒にしていてね」「分かった。ところで花南を舞い上がらせた高一の男子は今日来ていないの」「来ていない」「そうかぁ。残念。私も会いたかったのに。機会を作って紹介してね」「イヤだ~。恥ずかしい。それに…」「それにって何さ」「美子に獲られてしまいそう。だって美子はわたしよりも美人で可愛い。登校拒否でもない。美子に獲られたらわたし。立ち直れない」「あんた。意外とバカだね。花南と私はまったく別のタイプ。花南に心を動かされた少年が私にも気持ちを向けたら、あんた、誰でも良い証明。私はそんな男子は御免。あんたには止めな…‼…って言う」「そうかな~。そんなものなんだ。だったら近いうちに紹介する」「おっ。そうこなくちゃ。早めにお願いね」 美子はそう言い残して踵を返した。■4/12にリターンを見直しました。活動報告の4/12をクリックして下さい。


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